2011年5月31日(火)「しんぶん赤旗」
主張
イレッサ厚労省報告
「ムラ」の「ヤラセ」に居直るな
肺がん治療薬イレッサの薬害訴訟で和解交渉中だった今年1月、厚労省が日本医学会などに「下書き」まで示して、和解勧告を批判する見解を表明するよう働きかけていた問題で、同省が行った調査の報告書が公表されました。
報告では、厚労省による学会への働きかけが関係学会に広く行われ、これは同省の組織ぐるみの工作であったことを認めましたが、「通常の職務執行の範囲内」のことだと居直りました。下書き提供は「行き過ぎた行為」として、関係職員の「処分」をしましたが、通り一遍のお手盛り調査で、一件落着とするわけにはいきません。
公共の責任投げ捨て
800人以上の副作用死を引き起こしたイレッサの薬害訴訟では、東京、大阪の両地裁が1月7日、国と輸入販売元のアストラゼネカ社の責任を認め、被害者にたいし和解金を支払うよう求めました。マスメディアも、この和解勧告を評価し、国とア社に勧告受け入れを求める論調を強めました。
報告によれば、この状況に危機感を抱いた厚労省は、薬務行政を所管する医薬食品局長が主宰する局議で、「メディア対策として」関係学会に見解を公表するよう要請するため、「やれることは何でもやるべきである」との方針を確認。六つの学会に要請し、うち三つの学会には見解の文案となる「下書き」まで渡していました。その結果、三つの学会、一つの学会役員名の見解が出され、そのなかには「下書き」をそのまま引き写しているものもありました。
世間では、これを「ヤラセ」といいます。国や製薬企業と比べれば力の弱い被害者が、長いたたかいで、やっと和解勧告にこぎつけました。世論もこれを支持しました。そのとき厚労省が結びつきの強い関係学会に働きかけ、その「権威」を使って和解に水を差す。これほど卑劣なことはありません。
報告書は、この動きとアストラゼネカ社の関係を調査の対象外にしました。同社は、各学会の見解が出た後、それを援用して、和解拒否を公表しました。和解を迫る世論への対策で、学会の見解によってもっとも大きな恩恵を受けたのは同社です。この点を素通りして、何の調査かという批判があがるのは当然です。
厚労省の「下書き」を引き写して、見解を表明した関係学会の姿勢も問われています。中立・公正な立場で、科学的知見にもとづき態度を表明するという学者、研究者の使命に照らせば、あまりに無責任といわざるをえません。
製薬業界は、厚労省からの天下りを多数受け入れています。製薬企業が大学や病院、医師に研究費や寄付として流している資金は巨額で、政治献金も大変な額です。薬事行政の中立が損なわれ、国民の命が危うくされている背景に、産官学政の「ムラ」にも例えられる癒着が浮かび上がっています。
癒着絶つ再検証を
東電福島原発災害は、東電や原発企業、経産省、学者・研究者、御用政治家が「原子力ムラ」をつくり、「安全神話」をふりまきながら、原発推進一辺倒ですすんだのが、どれほど危険なことであったかを白日の下にさらしました。
「ムラ」の害悪を一掃しなければなりません。菅内閣の責任で、徹底した情報公開と再調査を行うことが強く求められます。
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