2011年5月27日(金)「しんぶん赤旗」

OECDでの首相演説

「原発安全」新たな宣伝 廃止・縮減の世論に逆行


 菅直人首相がOECD(経済協力開発機構)の50周年記念行事のスピーチ(25日、パリ)で示した、日本のエネルギー政策の「新たな挑戦」の中身は、自然エネルギー重視の点では前向きな一面を見せつつ、原発の「安全神話」から脱却できない重大問題をはらむものになりました。

 首相は、自然エネルギーについては、これまでのコスト高などの壁を破って「実用性に挑戦」することを提示。従来の政策を転換して社会の「基幹エネルギー」に高めるとしました。自然エネルギーを電力全体の20%に高める目標期限を、現行の2030年(政府のエネルギー基本計画)から2020年代のできるだけ早い時期にすると、各国首脳に向かって公約しました。

事故収束せず

 しかしエネルギー政策の「新たな挑戦」の第一に首相が掲げたのは、原子力エネルギーの「安全性」への挑戦です。福島第1原発の重大事故の対応に四苦八苦しているさなかに、「今回の事故を教訓に『最高度の原子力安全』を実現していきます」と述べました。

 事故はなお収束せず、未曽有の危機から脱していません。福島第1原発の周辺住民は生活を奪われて避難所で苦しみ、農漁業・商工業者は基盤となる経済活動に甚大な被害をこうむり、国民は深刻な放射能汚染の不安に直面しています。

 首相は「原子力の安全性」について事故から教訓を学ぶとしていますが、政府は「事故調査・検証委員会」の設置を決めたばかりです。まだ何ら議論も結論もないまま、原発の「最高度の安全」に触れるというのは空文句にも等しいものです。

 過酷事故は起きない、原発は絶対に安全です、という“安全神話”が政財官学からふりまかれ、過酷事故への備えもなく世界有数の地震・津波国の日本に原発を集中立地してきたことへの反省が、今回の事故の最大の教訓となるべきものです。“安全神話”にもとづく甘い想定、設計基準からつくられた現行の原発に、「安全な原発」と断言・保証できるところはどこにもありません。事故の教訓から「原発からの撤退」を決断し、「原発ゼロ」のプログラムを探求することこそ、いま求められています。

 事故の検証も根拠もなく、「最高度に安全」な原発を世界に公約する首相の言葉からは、原発依存のエネルギー政策から抜け出す道筋も、「安全神話」への反省も全く見えません。

反省ない首相

 首相は10日の記者会見で、電力に占める原子力発電の比率を50%以上にするという現行エネルギー基本計画を「白紙に戻し議論する必要がある」と打ち出し、原発14基以上の新増設方針を見直す考えを明らかにしました。

 「白紙からの議論」という以上、原発の是非を含めた議論が必要なはずでした。しかし今回のOECD記念行事でのスピーチは、白紙からの議論より、世界にみずからの存在をアピールすることを優先したことになります。原発の縮減・廃止を支持する世論は6割を超えています。“安全神話”への反省もない首相による“原発の安全”宣伝は、世論の厳しい目にさらされることになります。  (斉藤亜津紫)





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