2011年5月26日(木)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
家の近くの森に、ホオノキとエゴノキが30メートルほど離れて立っています。どちらも目立つ道路ぞいなので、花の季節には気になって仕方がありません▼5月初め、ホオの花が咲きます。エゴの花は、2週間ぐらい後です。日本の樹木の中でもっとも大きな花をつけるホオ。小さな花のエゴ。花が天を仰ぐホオ。つるしたように下を向くエゴ。まばらに咲くホオ。ひしめいて咲くエゴ…▼個性の違いがきわだちます。黄みを帯びた白の大輪、ホオの花。純白のエゴの花。色はともに、初夏のさわやかさを感じさせます。ホオの花の命は短い。エゴも盛りを過ぎつつありますが、いまなお道行く人を立ち止まらせています▼見上げると、よくもまあ。葉陰にびっしりと咲く花が、空を埋めるぼたん雪を連想させたり、満天の降る星を記憶の底から引き出させたり。そこはかとなく芳香がただよい、別世界へと誘うようなエゴノキの下です。「恍惚(こうこつ)と花えごの樹下うち湿り」(岸田稚魚)▼昔々、人は、殺菌作用をもつホウノキの葉を食器に用い、毒をふくむエゴノキの実をつぶし魚とりに使いました。ことしの花の季節には、そんな人間の暮らしとのかかわりも考えてしまいます。やはり、大津波が人の営みをたちまちのうちに断った、3・11の瞬間を思い起こすからでしょうか▼雨に打たれたエゴの花が、歩道を敷きつめています。梅雨が近い。また想像してみました。エゴの花が避難所や被災者の家を飾り、ほんのり甘い香りがひろがってゆく光景を。