2011年5月25日(水)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
小柄で武骨な見かけだが、歌をつくり器用に家も直す桜井昌司さん。のっぽでおしゃれだが、少し不器用そうな杉山卓男さん▼明るい桜井さん、内気な雰囲気もただよう杉山さん。なにかと違う二人は、若いころ仲が悪かったといいます。町の暴れん坊の杉山さんが、桜井さんをなぐったこともあったとか。しかし二人は、二十代のはじめから生涯の同志です▼ともに育った茨城県利根町の布川で強盗殺人をはたらいた、といって逮捕され44年。最初の「自白」を認めず、無実を訴えてきました。警察や検察による「えん罪のデパート」とよばれる布川事件です▼脅しで自白を迫る。“現場近くにいた人は杉山さんではない”との目撃証言をひた隠す…。真実をつらぬき死刑になるか、うそを「自白」して生きのびるか。二人は、真実の道を選びました。「裁判所は分かってくれる」と信じて▼しかし、最高裁でも無期懲役。「人生が終わったと思った」(杉山さん)。一昨年、あきらめず求めた裁判のやり直しが決まり、二人は語りました。「チンピラのままいたらどういう人間になっていたか…。事件に巻き込まれ悔しいが、善意のみなさんや弁護団と出会えた」(杉山さん)▼「満ち足りた42年を過ごしてきた。善意の人たちにふれて、真実をつらぬけた」(桜井さん)。もはや裁判所は信じられなくても、いつか真実と人々の善意の力が勝つ。その信念が昨日の無罪判決をよび込み、日本の人権と司法の歴史に新たな1ページを書き加えました。