2011年5月25日(水)「しんぶん赤旗」
主張
布川事件再審無罪判決
「司法の犯罪」を繰り返すな
日本の刑事司法を根本から見直すことを迫る、重要な判決です。
布川(ふかわ)事件のやり直し(再審)の裁判で、水戸地裁土浦支部が、事件当事者の桜井昌司氏、杉山卓男氏に無罪判決を出しました。「両名が本件強盗殺人事件の犯人だと証明するに足りる証拠はない」と、2人を無期懲役にした過去の判決の誤りを明確に認めました。
典型的な冤罪事件
茨城県利根町布川で1967年に起きた強盗殺人事件で、桜井、杉山両氏が犯人とされ、いったんは有罪が確定しました。事件と2人を結びつける物的証拠が何も無いなか「自白」だけを証拠に有罪にした典型的な冤罪(えんざい)でした。
「自白」は、誘導や脅迫、違法・不当な取り調べでつくられたものでした。再審判決が、「信用性を肯定することはできず、その任意性についても疑いを払拭(ふっしょく)することができない」と認定したのは当然です。再審公判で行われたように、最初の裁判でも、自白の状況やその内容のあいまいさ、客観的事実との矛盾が冷静に検討されれば、当然防がれたはずの冤罪がなぜ起きたのか。ここに深く明らかにすべき問題があります。
2人は不当な別件逮捕をされ、警察が完全に支配する代用監獄に置かれ、犯人と決め付ける取り調べを受けました。アリバイは裏づけも取らずに否定され、死刑の脅しを受け、強要と誘導に心が折れ、虚偽の自白をさせられました。
起訴後も検察は、不利な証拠を隠し続けました。自白の核心の矛盾が浮かび上がる「死体検案書」、2人が現場に行っていないことを示唆する「毛髪鑑定書」、犯行現場での別人の目撃証言など重要証拠は、事件後37年を経た第2次再審請求まで開示されませんでした。
裁判所は、「やっていなければ自白はしない」という自白偏重の予断と「被告より、警察、検察のいうことが正しい」という偏見で、真実の解明に背を向けました。
布川事件は、警察、検察の不正義と、それをうのみにした裁判所の無責任が罪を捏造(ねつぞう)した「司法の犯罪」というべき事件でした。
同じ構造の冤罪事件は数多くあります。昨年3月に再審無罪が確定した「足利事件」でも、密室での自白強要が冤罪の決定的な原因でした。足利事件はDNA鑑定により再審無罪を勝ち取りました。布川事件は、唯一の証拠とされた「自白」の信用性そのものを突き崩すことで、裁判所の判断を変えました。より普遍的で、司法のあり方を根本的に問う力をもった再審無罪判決といえます。
両氏の逮捕から名誉回復まで、43年間かかりました。無実を貫いた事件当事者、弁護団、支援団体の固い団結があった布川事件でさえ、これだけの年月を要しました。国家権力を行使する者の不正義がいかに重大な結果をもたらすか、警察、検察、裁判所のすべてが、深く省みるべきです。
検証し再発防止を
何が冤罪を生んだのか、再審判決でもなお解明が尽くされたとはいえません。中立・公正な第三者機関による検証を含め、徹底した事実解明が必要です。
不法な取り調べの温床になっている代用監獄の廃止、取り調べ適正化のための全過程の可視化、検察官手持ち証拠の全面開示など、冤罪を生まぬ司法へ、制度的改革は一刻の猶予もありません。