2011年5月23日(月)「しんぶん赤旗」

なかなか進まない借り上げ住宅

「待ち遠しい」


 被災地から他県に避難した人たちに、避難先の自治体が民間賃貸住宅を借り上げ無償で提供する、国の制度の実施が遅れています。東京電力福島第1原発から10キロ地点に暮らしていた福島県浪江町の滝田正夫さん(63)、育枝さん(59)夫妻は転々と避難した末に埼玉県八潮市のアパートに落ち着きました。同制度の実施を待ちわびます。おじで家主の海田明さん(69)も「避難してきた人から家賃をとるのは気が引ける」と早い実施を望みます。 (海老名広信)


“放射能”逃れ転々

福島・浪江町から埼玉・八潮市へ

写真

(写真)日本共産党の池谷和代八潮市議(奥)に放射能から逃れてきたこの間の経緯について話をする滝田夫妻=埼玉県八潮市

 2DKのアパートで、育枝さんは携帯電話におさめたわが家の写真に見入ります。青空をバックに輝く赤い屋根と白い外壁。2階建ての家は昨年7月内外装をリフォーム。「夫婦のこれからを考えてバリアフリーにして、あてもないのに息子の嫁さんを迎えるためにキッチンを新しくして…。くやしいねぇ」

親族頼り

 そのわが家を正夫さんが後にしたのは大地震の翌日、3月12日のこと。電気・水道が通じず寒さに耐えかねて。育枝さんは不眠不休で2日間働いた後、夫が身を寄せる同じ町内の妹宅に向かいました。

 そこではおとな7人が「屋内退避」状態。1週間外に出られず食料も尽きかけ、食いぶちを減らすため滝田さん夫妻は「娘のところにいく」と告げ、仙台市に車を走らせました。

 娘(33)はワンルームに暮らし、親子3人の生活は1週間が限界でした。そして、東京都江東区の息子(31)のアパートへ。同居する友人には千葉の実家に帰ってもらいました。ここも1週間で出ることに。

 最後は、正夫さんのおじ、海田さんの「八潮市にくれば部屋があるよ」という言葉にすがりました。

げっそり

 海田さんの前に現れた2人はげっそりして正夫さんの顔は険しく育枝さんは生気がありませんでした。

 いまは、正夫さんの顔は柔和です。きっかけは、今月半ば、勤めていた建設会社の社長から正夫さんを気遣う電話があったから。

 「いまだからいうけど」と育枝さんに笑顔でにらまれた正夫さんは照れて頭をかきます。「震災後、お父さんの言葉の暴力が始まりました」と育枝さん。

 ささいなことで怒鳴り散らし、頂点に達した怒りの言葉が「原発建屋の前で暴れ回って新聞に載ってやる」。いつも冷静な育枝さんも、このときばかりは「そうだ暴れ回れ。私たちを苦しめる原発の前で」と叫びました。

 正夫さんは約1・4ヘクタールの田んぼに思いをはせます。何度も表彰されたコメづくりの名人は「早く田植えがしたい」といいます。育枝さんは「そこに家があり田んぼがあるのに帰れない。いま帰れないことが分かっていても、田植えをするかすかな希望に心が動くの」。

 いずれは我が家に帰りたい正夫さん。その日がいつかは分かりません。「おじに長くは甘えられない」と育枝さん。八潮市は独自に民間住宅を借り上げて被災者に無償提供していますが、海田さんのアパートはその対象物件になっていません。国の借り上げ制度なら、借り主の契約名義を自治体にかえることでいまのまま暮らせます。夫妻は「早く国の借り上げ制度を利用したい」と力をこめます。

 日本共産党の池谷和代市議が滝田夫妻の避難生活について相談に乗っています。(文中、池谷市議以外は仮名)





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