2011年5月23日(月)「しんぶん赤旗」

シリア反政府デモ拡大

弾圧続行のアサド政権


 強権的な支配が40年以上続く中東のシリアで、民主化とアサド政権の退陣を求めるデモが3月半ばから続いています。同政権は反政府デモが拡大する中、譲歩する姿勢も見せる一方、激しい弾圧で政権維持をはかろうとしています。 (伴安弘)


逮捕者、競技場に

地図

 チュニジアやエジプトで強権的な政権を倒した運動に触発され、3月15日、首都ダマスカスで最初の反政府デモが行われました。

 続いて南部ダラアで同月18日、12歳の少年たちが壁に政府を批判するいたずら書きをしたとして逮捕・拷問されたことに抗議するデモが起きました。これを治安部隊が実弾を使って鎮圧。死者が出たことに民衆が怒り、デモは数千人の規模に膨らみ、首都郊外から第3の都市ホムス、港湾都市バニヤス、ラタキアなど全国に広がりました。84の市町村で抗議行動が起きているといわれます。

 政権側は3月26日にラタキアに政府軍部隊を初めて投入した後、4月25日にはダラアに、5月初めにはバニヤス、ホムスに軍を投入。これらの都市を包囲し、民主化を求める人たちを大量に逮捕しています。

 包囲された都市では電気が止められ、水道も遮断。医薬品不足も生じているもようです。英国に本拠を置く人権団体は、弾圧による死者が少なくとも831人に上ると見ています。また逮捕者は1万人に達し、刑務所が足りず大半が競技場に収容されているといいます。弾圧を逃れるため隣国のトルコやレバノンに逃れる人も出ています。

主要都市を包囲

 デモの当初の要求は「政治的自由」と、そのための非常事態令の撤廃でした。1963年の軍事クーデター以来、続いている非常事態令は、集会の禁止、令状なしの拘束など強権支配の道具となってきました。

 アサド大統領のデモへの対応は二面的なものです。非常事態令撤廃の姿勢を見せる一方で、集会を許可制とする法律も準備。4月21日に撤廃法案に署名しました。しかし、デモ弾圧の姿勢に変化がないことを見抜いた民衆が4月22日に大規模デモを実施すると、これに対する治安部隊の弾圧は、103人の死者を出すそれまでにない激しいものになりました。

 民衆は、「政権の退陣」へと要求をさらに鮮明にしました。政府側もこれ以降、デモが続く主要都市に、戦車を含む大規模な軍部隊を投入しました。

 事態の打開のため政権側は5月13日、国民対話」を呼びかけました。しかし、主要都市は軍に包囲されたままで、反政府側は「対話」には「殺りくと暴力の停止」と政治囚の釈放が前提だとしています。

誕生から死 監視

 シリアでは1963年のクーデターで政権を握ったバース党が「アラブ主義」「社会主義」などを標ぼう。70年のクーデターで政権についたハフェズ・アサド大統領(現大統領の父親)は、社会主義者やイスラム主義のムスリム同胞団を逮捕、抑圧し、同党をアサド一家のための党に変えました。

 バッシャール・アサド現大統領は就任当初、政治囚を一部釈放し、「改革」を約束。父親の強権支配の「片腕」だった大統領警護長官を遠ざけました。しかし、デモの高まりの中で、同長官を呼び戻したといいます。

 強権支配の主要な手段は17の組織を持つ治安機関です。これらの組織は国民一人ひとりの誕生から死までを監視しているといいます。国営テレビなど情報手段も国家が握っています。外国メディアの国内取材を禁じ、政府の主張にそった一方的な報道を続けているのもシリアの特徴です。

党・軍の一部反抗

 政権の支配のもう一つの手段はバース党です。同党はシリアの憲法で「社会と国家を指導する党」と規定され、超法規的措置もとれる存在です。しかし、ダラアへの政府軍の投入と弾圧強化に対し、同地その他のバース党党員230人以上が4月末、いっせいに抗議の離党を表明。政権内部に亀裂が生じていることを示しました。

 一方、政府軍は政治的には二分されているといわれます。国防省に忠実な「中立的な」部分と、共和国防衛隊、アサド大統領の弟マヘル・アサド氏が司令官を務める第4機甲師団など、弾圧の中心にいる部分です。

 軍内部では住民への発砲に反対する兵士も出ています。しかし、バース党、軍の内部の反抗は一部にとどまっており、事態の流れを変えるまでには至っていません。

 年月日  出来事
1946  フランスの委任統治から独立
1963  クーデターでバース党政権樹立/非常事態令発令
1970  クーデターでアサド(父)首相就任
1971  国民投票でアサド大統領就任
1972  バース党中心の「国民進歩戦線」結成
1982  ハマなどで反政府暴動/弾圧で数万人が死亡
2000  アサド大統領死去/次男バッシャール・アサド大統領就任
2011・3・15 反政府デモ始まる
   3・26 ラタキアでの反政府デモに軍を投入
   4・21 非常事態令撤廃法案に署名
   4・22 金曜礼拝後のデモ弾圧で死者103人
   4・25 反政府デモ鎮圧で軍投入を各地に拡大
   5・13 アサド政権「国民対話」を呼びかけ





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