2011年5月22日(日)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
「初がつお力んで食って蚊に食われ」。江戸時代の話です。初ガツオを買うために、蚊帳を質に入れてしまった。あぁ、夏はカに食われっぱなしか…▼目には青葉のころ。江戸の町で、江戸っ子の初物好きとカツオ好きがあいまって、初ガツオが大人気でした。初入荷の日となれば、庶民も競って買いに走る。しかし、値段の方はべらぼうに高い。見えを張って力んで食べた、というわけです▼当時の味付けは、カラシとしょうゆだったらしい。カツオの生まれ故郷は、はるか南の赤道あたりです。育ち盛りの2、3歳のとき、えさの小魚がいっぱいの日本近海にきます。初ガツオ好みは、初夏の季節感と日本の豊かな海がもたらす食文化なのでしょう▼カツオは、日本の太平洋沿岸を南から北へと上ります。夏、南からの黒潮と北からの親潮がぶつかる三陸沖へ。親潮の勢いが強まる初秋、南へと向きを変えます。南下する「もどりガツオ」を、「脂がのっている」と好む人も多い▼最近は、カツオ不漁の年が目立ちます。ことしは、東日本大震災の津波で東北から関東の漁港が大打撃を受けました。カツオ漁に間に合うよう、復旧を急いでいます。「カツオ漁から復興へ」。漁業の町の意気込みにこたえる、国の後押しが欠かせません▼原発事故の影響を心配する人たちもいます。カツオが、放射能に汚染された小魚を食べてしまわないか。取り越し苦労に終わればいいのですが。梅雨や真夏をのりきる元気のもとに思える、赤身のカツオです。