2011年5月21日(土)「しんぶん赤旗」
主張
貸金総量規制緩和
サラ金頼みで被災者救えるか
金融庁は、東日本大震災の被災地に限り、サラ金業者が法律の規定に反する過剰な貸し付けをできる規制緩和を実施しました。
多数の悲劇を生んだサラ金・多重債務被害を防ぐため、昨年6月に完全施行された改正貸金業法は、灰色金利の名で知られた高金利の禁止とともに、借入総額を年収の3分の1までに抑える「総量規制」を導入しました。金融庁は被災地での特例として、総量規制を緩和し「借りやすく」する措置をとりました。「被災者を多重債務者に陥れかねない愚策」(全国クレジット・サラ金問題対策協議会)と、強い抗議の声があがっています。
政府の責任「丸投げ」
金融庁が4月28日の内閣府令で突然行ったサラ金・クレジット融資の規制緩和は▽総量規制に抵触する顧客でも領収書の提出免除や返済期限の延長で融資に応じる▽個人事業主の100万円を超える借り入れで事業計画書など返済計画を判断する基準の弾力化▽極度額方式の借り入れ(キャッシング)の手続き簡略化―など。結局、あれこれの特例を設け、サラ金、クレジット会社に、返済能力などを度外視した過剰融資を被災者向けに行わせるものです。
着の身着のままで避難して当座の生活資金にも事欠く人、家も、工場も、設備も、船も失って借金だけが残って途方にくれる人。仕事を失い、生活再建の道筋がまったく見えない人。そういう当座の資金が必要な被災地だから、「借りることができる資金を借りられないという不都合が生ずるおそれがあれば、これを取り除く必要がある」(金融庁)のだそうです。
これを「おためごかし」といいます。サラ金、クレジットの融資は、慈善事業ではありません。被災地であっても、年利20%近い高利をむしりとるのです。被災者の助けになるはずはありません。
改正貸金業法施行後、大手サラ金の経営破たんなど、サラ金業界の経営難がすすんでいます。過去の政界工作で「サラ金」議員というべき政治家を多数抱える業界は、さまざまな手を打っています。
被災地での規制緩和を言いだしたのは民主党でした。同党財務金融部門会議の4月1日の震災対策提言に「被災者のクレジット、信販、貸金の緊急的な利用を可能にするため貸金業法の総量規制の緩和措置の活用等を検討すべきである」という文言を盛り込みました。
これに呼応し、日本貸金業協会が同14日、金融庁に規制緩和を要請しました。金融庁は、通常なら欠かせない意見公募の手続きも行わず、内閣府令へと突き進みました。長い議論を通じて、多重債務被害を無くすために行われてきた努力が、震災被害に乗じて空洞化させられかねない事態です。
高利貸しの餌食にするな
被災地にいま必要なのは、全国から寄せられた義援金や被災者生活再建支援法にもとづく支援金の速やかな配分、増額です。「二重ローン」に苦しむ被災者の実態を踏まえ、債務の免除や凍結、無利子融資や利子補給などの制度融資の抜本的拡充等、従来の常識を超える手厚い支援策を真剣に考えなければなりません。
政府がやるべき施策を怠りながら、被災者をサラ金の餌食にするような内閣府令は撤回すべきです。被災者への政府の態度が、根本から問われることになります。