2011年5月16日(月)「しんぶん赤旗」

原発事故 そこが知りたい

広がる海洋汚染


 福島第1原発事故で、海での放射性物質の広がりが心配されています。


Q 高濃度の汚染水が流出していたけど

  2号機取水口付近にあるコンクリート製たて坑(ピット)から、4月2日朝、表面の放射線量が1000ミリシーベルトを超える高濃度の放射能汚染水が海に流れ出ているのが見つかりました。その後、止水策で同月6日朝に流出が止まったことが確認されました。

 2号機は、爆発によって原子炉格納容器が損傷し、原子炉内にある放射性物質が大量に流出しているとみられています。

 しかし、通常では検出されない高い濃度の放射性物質が初めて海水から見つかったのは3月21日でした。4号機の放水口南330メートルの海水から、ヨウ素131、セシウム134、セシウム137を検出しました。その後も、海水から放射性物質が検出され続けています。

 原子炉内では、核分裂生成物質が何百種類も生成されます。プルトニウムなどの放射性物質が汚染水に含まれていたはずです。

 4月18日に福島第1原発の沖合15キロメートル地点で採取した海水から、そういった放射性物質の一つであるストロンチウム90が検出されました。ストロンチウム90やプルトニウムは人体に入ると体外に排出されにくく、長期間にわたって放射線を出し続けるため、健康に影響を与える可能性があります。汚染水に含まれていたすべての放射性物質についてのデータを公表する必要があります。

 また、5月11日に、3号機の取水口付近のピットに、国の基準の62万倍のセシウム134などを含む水が流入しているのが見つかり、取水口付近の海水の放射能濃度も高くなっており、海に流出したとみられています。原子炉に水を注いで冷却する限り、汚染水が流れ出て海に達する可能性はつきまといます。

Q 3月に見つかった放射性物質はどこから

  放射性物質は空中にも膨大な量が放出されており、海にも放射性物質が大量に降ったり、土壌に落ちたものが川を伝って流れ込んだり、雨によって海に流されたと考えられます。また、2号機からの汚染水の漏れが早くから始まっていたり、ほかの場所から漏れていたりした可能性もあります。

Q 環境への影響は

  原発周辺の沖合3キロメートルの海底土から、事故以前の100〜1000倍の放射性物質を検出、30キロメートル以上の沖合でも見つかっています。

 日本では、文部科学省が「海域における放射能濃度のシミュレーションについて」(第三報)を4月29日に発表しています。そこでは、海水放射能濃度が海表面のみに拡散する、発電所から大気中に放出された放射性物質の海面への降下は考慮しない、海水中の下層への拡散は考慮しない、という仮定をして影響を試算しています。これは実態にあわず、十分ではありません。

 フランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)が4月4日、放射性物質の海への影響の予測を公表しています。

 それによると、水に溶けやすい放射性物質は水面に近い浅い層となって沖に広がり、水に溶けないものは海底に沈降するとしています。放射性物質は、数カ月の間、福島県沖にある渦を巻く海水の流れによって福島県沿岸から房総半島の太平洋岸に大きい影響を与え、その後、黒潮に乗って東へ運ばれるという結果を出しています。

 ヨウ素131(半減期8日)のような半減期が短い物質は数カ月のうちに検出されなくなりますが、セシウム134(半減期が約2年)などは数年、セシウム137(半減期30年)などは、場所によって11年から30年後程度まで検出され、プルトニウムが含まれていたとしたら、5〜17年後まで検出されると推定。

 生物への影響では、ヨウ素131は海藻に大量に取り込まれやすいが、半減期が短いので、顕著に高い含有量となるのは数カ月の間だろうとしています。

 セシウムの生物の体内への蓄積では、貝類や海藻では海水中の濃度の50倍、魚では400倍に濃縮されると推定しています。

Q 東電が放射能で汚染された水を海に捨てた事件もあったけど

  4月4日に東京電力は、集中廃棄物処理施設と、5、6号機の地下にある放射能で汚染された水を海に放水すると発表し、その日の夜に放水を始めました。原子力安全・保安院は「やむをえない措置」として認めましたが、漁連や農水省には、事前に放水について連絡していませんでした。

Q なぜそんなことをしたの

  ほかの場所にあるもっと濃度の高い汚染水を貯蔵する場所をつくるためだと説明しています。しかし、海に物を廃棄することを規制した海洋汚染防止条約(ロンドン条約)では、放射性物質の海洋投棄は禁止されています。また、日本の原子炉等規制法でも、放射性物質を海へ投棄しないことを方針としています。今回の放射能汚染水の海洋投棄は、これらの規則に違反しています。


〈福島第1原発 放射性物質が海に流出した主な経緯と影響〉

 3月21日 4号機付近の海水から濃度限度の126.7倍のヨウ素131、同24.8倍のセシウム134、同16.5倍のセシウム137を検出。

 30日 1〜4号機放水口近くの海水から濃度限度の4385倍のヨウ素131を検出。

 4月2日 2号機取水口付近のコンクリート製たて坑(ピット)から、表面の放射線量が毎時1000ミリシーベルトを超える汚染水が海に流れていることを確認。2号機付近の流出水から濃度限度の1億3500万倍(1立方センチメートルあたり540万ベクレル)のヨウ素131を検出。セシウム134は同3000万倍、セシウム137は同2000万倍を検出。

 4日 北茨城市沖でとれたコウナゴから暫定規制値を超える放射性セシウムを検出。

 6日朝 2号機取水口付近のピットの亀裂からの流出が止まる。

 21日 東電が、2号機付近から漏れた放射能の量について4700テラ(1テラ=1兆)ベクレルと発表。ヨウ素131(2800テラ)、セシウム134(940テラベクレル)、セシウム137(940テラベクレル)の合計。

 29日 福島第1原発周辺の沖合で採取した海底土から、事故以前には検出されなかったヨウ素131、セシウム134、ヨウ素137を検出。

 5月11日 3号機取水口付近のピットで、濃度限度の62万倍のセシウム134を含む水が海へ流出。

〈東京電力が放射能汚染水を海洋投棄した経緯と影響〉

 4月4日 東電は、集中廃棄物処理施設内に貯蔵している廃液など約1万1500トン(集中廃棄物処理施設約1万トン、5、6号機のサブドレンピットの地下にたまっている1500トン)を海へ放出すると発表。午後7時から放出を開始。最大で濃度限度の1000倍。

 7日 放水が続く中、5、6号機放水口北側30メートルで午前8時50分に採取した水から濃度限度の2800倍のヨウ素131を検出。

 10日 放水を終了。東電は、放出した放射能汚染水は1万393トン、放射能の量はヨウ素131、セシウム134、セシウム137の合計で1500億ベクレルと発表。

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(写真)魚介類の放射性物質検査の計画(文部科学省発表資料から)





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