2011年5月15日(日)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
「山は崩れて河を埋(うづ)み、海は傾きて陸地をひたせり」。鴨(かもの)長明(ちょうめい)が「方丈記」で描いた地震、津波のようすです▼壇ノ浦で平家が滅亡した1185年のことでした。「土裂けて水湧き出(い)で」とは液状化現象でしょうか。「渚(なぎさ)漕ぐ船は波にたゞよひ」というのも最近私たちが目にした光景です。土煙をあげて倒壊する建物、ごう音をたてて割れる大地。余震は3カ月も続きます▼映像メディアもない時代、災害や飢餓の悲惨さを取材し、丹念に記録しました。餓死した人の遺体が放置され、都に死臭が満ちるさまも克明に描きました。長明が生きた平安末期から鎌倉時代初期は貴族と武士が日本を二分して権力を争った戦乱の時代でした▼貴族社会が崩壊し始めた中、長明は表舞台から身を引き、山中の庵(いおり)に閑居します。しかし、社会の現実へのこだわりは、同時代の「新古今和歌集」が自然美を歌い上げることに技巧を尽くしたのと対照的です▼長明は古代に理想社会があったと考え、それとの比較で政治のあり方に鋭い目を向けました。「煙の乏しきを見給ふ時は、限りある貢ぎ物をさへゆるされき。これ民を恵み、世を助け給ふによりてなり。今の世のありさま、昔になぞらへて知りぬべし」とも書いています▼昔は民が炊事も満足にできないときは税を免除した、今と比べて考えようということです。800年前の思いはそのまま21世紀の今に通じます。震災復興財源の名で庶民増税をたくらむ人たちを見たら、長明は何と言うでしょうか。