2011年5月15日(日)「しんぶん赤旗」
主張
原発事故被害賠償
一日も早く手元に届けてこそ
東日本大震災で被災した東京電力福島第1原発の事故と放射性物質の飛散で、避難させられた人たちの一時帰宅が始まりました。2カ月ぶりに目の当たりにした自宅の惨状にことばを失う住民の映像に、見る側も胸が詰まります。
一方、「計画的避難区域」に指定され新たに避難が迫られている地域では、連れて行けない家畜の殺処分が迫られています。処分場に送られる家畜を愛(め)でる農家の姿にも、思わず涙を誘われます。
何の責任もない原発事故で、避難させられ、出荷規制などに追い込まれた住民や農林漁業者。被害の全面賠償は、まったなしです。
被害の賠償は全面的に
政府は先に原子力損害賠償法で東京電力が賠償責任を負う被害についての「第1次指針」をまとめたのに続き、政府の賠償支援の「枠組み」や、避難住民だけでなく農漁業者や中小業者にも「仮払い」を東電に求めるなどの方針を相次いで打ち出しました。しかし、賠償支援のための法案提出の見通しはまだたっていません。
避難した住民には賠償の一部が「仮払い」されているとはいえ、生活の糧を失った避難生活の長期化で、不安は募る一方です。避難は迫られていないものの放射性物質の拡散で出荷や作付けが規制され、風評被害でも売り上げが落ち込んだ農林漁業者や流通、観光などの業者には、いまだに1円の賠償もありません。事故がなければ得られた収入が保障されるように、避難に要した費用や出荷規制・風評などによる物質的な被害はもちろん、精神的な被害についても、全面的に賠償すべきです。
避難先から自宅に帰れるめども立たず、長年取り組んできた農業や畜産なども中断しなければならなくなっている周辺住民や農林漁業者の生活を支えるために、一刻も早く支払われるべき賠償が手元に届けられることが必要です。政府が「指針」づくりや「枠組み」づくりなどの議論に時間を費やしている間にも苦しみは続いています。「仮払い」であれ直ちに賠償が支払われるようにしてこそ、被災者の立場に立った対策になります。
賠償の責任を負っているのは東電です。同時に国策として原発建設を進めた政府にも大きな責任があります。政府が責任をもって東電に全面的な賠償を実施させることこそ重要です。避難生活や出荷や作付けの規制が長期間にのぼることを考えれば、「仮払い」も1回だけでなく、必要に応じて何回でもおこなわれる必要があります。住民を苦しめている避難中の住宅ローンや営農借り入れの返済についても、政府と東電の責任で、負担を取り除き、不安を解消できるようにすべきです。
支援すべきは被害者
賠償を支援する「枠組み」についての政府・民主党の議論が、被害者を助けるためでなく、東電の負担を軽くし、経営者や株主、金融機関を助けるものとなるならまったく筋が違います。賠償についての東電の「上限」は設けられませんでしたが、内部留保をはき出す東電の努力も、株主や金融機関に負担を求めることも不十分で、国が東電救済に税金を投入する可能性を示したことは重大です。
経営者や株主の負担を減らすために電気料金値上げなど国民に負担が転嫁されるとすれば、それこそ許されることではありません。
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