2011年5月14日(土)「しんぶん赤旗」
主張
社会保障「たたき台」
抑制路線の継続に道理はない
12日に開かれた社会保障と税の「集中検討会議」(議長・菅直人首相)で、議論の「たたき台」として厚生労働省が社会保障「改革」案を提示しました。
厚労省案は、東日本大震災による甚大な被害まで口実にして、歴代自民党政権が進めてきた社会保障の抑制路線をいっそう強めることを強調しています。医療・介護では「給付の重点化」や「公平な負担」の名で給付の縮小や患者負担増を図り、生活保護では受給基準を「検証」するとして削減の方向を打ち出しています。
東日本大震災も口実に
厚労省案は東日本大震災による「社会経済への大きなダメージ」が社会保障制度の持続可能性に影響を及ぼすとして、次のようにのべています。「改革に当たっては、これまで以上に、給付の重点化、選択と集中、優先順位の明確化が求められる」―。
この方針は自民党政権の社会保障抑制路線の看板そのものです。“最も困っている人”を重点にするとして制度の対象を縮小し、国庫負担を抑制するやり方です。国庫負担の抑制が目的である以上、“最も困っている人”の範囲はどんどん狭められていきます。このやり方は、命を守る最後のとりでである生活保護でも助けを求める住民の門前払いを奨励し、自殺や餓死など痛ましい被害を引き起こしてきました。
「構造改革」を前面に掲げた小泉・自公政権は、社会保障予算を毎年2200億円も抑制するために制度改悪を繰り返しました。その結果、「医療崩壊」など制度の根幹にかかわる矛盾を覆い隠せなくなって、ついに国民から退場宣告を受けるに至っています。
見過ごせないのは、社会保障をいっそう抑制する口実として東日本大震災の影響を持ち出していることです。これは、4月の「集中検討会議」で柳沢伯夫・元厚労相ら5人が提出した提言が、大震災で財政負担が増大することを社会保障抑制の理由に挙げたことと同じ発想です。
大震災は、「自己責任」の名で雇用、福祉、病院、防災、地方自治を破壊してきた「構造改革」路線では、国民の命を守れないことを浮き彫りにしました。災害に強い社会をつくるためにも、人間らしい暮らしを支え、国民の命を守る社会保障を充実させる必要があります。
厚労省案の説明資料は、被災地での被災者同士の支え合いやボランティアなど、「共に助け合う」ことが社会保障の本来の姿だとのべています。さらに、この「共助」によって、国庫負担の削減を意味する「給付の重点化」などの課題をクリアすることができるようになるとしています。
生活守る責務を果たせ
被災地で身を削って助け合う姿に感銘を受けない人はいません。同時に被災地の実態は、生活と地域社会を再建するためには、財政を含めて国があらゆる手だてを取って支援することが不可欠であることを示しています。被災地を見て社会保障の国庫負担を減らせると考える政府は、どれほど非人間的な政府でしょうか。
何より社会保障は、憲法25条にもとづいて国が国民の生活を守る責務を果たすための制度です。求められているのは、破たんした抑制路線を改め、社会保障を拡充する道に転換することです。
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