2011年5月12日(木)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
半そで姿の人が目立った夏の暑さから、翌日は梅雨時を思わせるような雨空に。季節の変わり目で、迷走しているような天気です▼東日本大震災、福島第1原発の事故から2カ月。福島県川内村の原発20キロ圏に一時帰宅した人の多くが、夏物の服を持ち出しました。しかし、暑苦しい防護服を着せられ、家にいられたのは2時間ぽっきり。1世帯に一つ配られた物入れ袋は、70センチ四方の大きさ▼ほかにも、袋につめるものがあったでしょう。家族みんなの服を、どれだけ持ち出せたのでしょうか。なにかと不自由な避難生活の中で、ささやかな夏のおしゃれをせめてもの楽しみにする人も少なくないはず、と察するのですが▼写真を持ち出す人も目立ったそうです。成長の記録。生きてきたあかし。ある作家がいいます。「写真を収集するということは世界を収集することである」。世界の単位である自分や家族の思い出の写真。そしていま、村民たちは、危険な原子力の時代の生き証人として報道写真に写り、その姿を世界に発信します▼村民は怒りました。「私らは被害者なのに、責任を押しつける気か」。政府が一時帰宅する人に署名を求めた、「(村民は)自己責任で立ち入る」との同意書に対する反発です。自己責任? 逆に、家と人々を切り離した国と東京電力こそ、村民の安全な帰宅に責任を負うべきなのに▼国と東電は逃げられません。原発災害の町や村が、住民の写真アルバムに残る思い出の地に変わり果てないようにする責任から。