2011年5月12日(木)「しんぶん赤旗」

主張

「あたご」裁判

死者にむち打つ不当な判決


 海上自衛隊のイージス艦「あたご」が2008年、千葉県沖で漁船「清徳丸」に衝突、沈没させた事件で、横浜地裁は業務上過失致死と業務上過失往来危険罪に問われた元当直士官2人に無罪判決を言い渡しました。

 衝突事故の原因が、「清徳丸」を右にみながら回避行動もとらず直進した「あたご」にあったことは海難審判所の裁決や防衛省の調査報告も認めてきたことです。それさえ否定し、判決が「清徳丸側に避航義務があった」としたのは、被害者と加害者をさかさまに描くことになります。

海難審判の裁決も

 事件は千葉県房総半島沖で08年2月19日、横須賀基地に向かって北上する「あたご」が、千葉県勝浦市から三宅島に向かっていた「清徳丸」に衝突、沈没させ、乗組員親子の命を奪ったものです。

 海上衝突予防法は、右側に相手の船をみる船が、右に回りこむなどの回避行動をとることを義務付けています。事故原因を調査した海上保安庁・海難審判所や防衛省の判断にもとづけば、「あたご」が衝突回避義務に従わなかったことが痛ましい事故の最大の原因であることは明白です。

 防衛省は事故直後から「『清徳丸』を右舷に見ていることからして…『あたご』に避航の義務があったが、『あたご』は適切な避航措置をとっていない」とのべていました。海難審判での裁決(09年1月)も、「本件衝突は、あたごが、動静監視不十分で、前方を左方に横切る清徳丸の進路をさけなかったことによって発生した」と断定しています。

 被告の「あたご」の元当直士官らが右方から接近する「清徳丸」の動静を監視し、適切な回避行動をとっていれば事故は起こるはずがありませんでした。にもかかわらず被告側が裁判になって、「清徳丸」の僚船船長らの供述にもとづいて検察側が作成した「清徳丸」の航跡図を否定し、「清徳丸が予想不可能な航行をしなければ、あたごの後方を安全に通過した」と主張しだしたのは、防衛省や海難審判の裁決がだした結論とも違うものです。

 判決が検察側の示した航跡図を「信用できない」と切り捨て、海難審判所の裁決などを一方的に否定したのは問題です。「清徳丸」が沈没し、乗組員が直接航跡を立証できない状態にあることをいいことに、被告の主張を一方的に採用するなど、公正さを問われる裁判所のやるべきことではありません。まさに「死人に口なし」とばかりに、死者にむち打つような判決を認めるわけにはいきません。

軍事優先正してこそ

 この事件で海難審判所の裁決が自衛隊の責任についても指摘していたことは重大です。自衛隊側の口裏あわせともいうべき隠蔽(いんぺい)工作も問題になりました。

 被告らが「清徳丸」に罪をかぶせたのも、軍事優先の意識にもとづく、おごりのためといわれても弁解の余地がないでしょう。

 巨大な自衛艦が小さな漁船を見下し、「そこのけそこのけ軍艦が通る」といわんばかりにルール無視を押し通す、軍事優先の体質とおごりを正さなければ安心して航行することも操業に従事することもできません。自衛隊の暴走を許さず、国民的監視を強めることがいよいよ重要です。





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