2011年5月11日(水)「しんぶん赤旗」
原子力災害にたいする救援、復旧、復興について
――福島県の訪問をふまえて
福島市 志位委員長の会見
東日本大震災の被災地を訪問(6日〜9日)した日本共産党の志位和夫委員長は、9日に福島市で、記者会見を行いました。内容は次の通りです。
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今日(5月9日)は、まず川俣町を訪問し、町長さん、山木屋のみなさんからお話をうかがいました。そのあと飯舘村の村長さん、南相馬市の副市長さんと懇談し、避難所もうかがう機会がありました。大震災後に福島県を訪問するのは2度目ですが、今回は佐藤知事とも会談して、意見交換をいたしました。
原子力災害から住民の命と生活を守るための特別立法を
佐藤知事との会談では、知事から、「福島県では地震、津波、原発、風評被害の“四重苦”で次々と出てくる新たな局面への対応に日々追われています」と、たいへんなご苦労をされているというお話がありました。同時に、今後の方向としては、前例のない原子力災害に対応する法整備(特別法)を国に要請しているというお話もありました。
私は、原子力災害にたいする特別法については、私たちも必要だと考えていますと話しました。原子力災害にたいして、現行法のもとでも可能な最大限の対応をすみやかにとることは当然ですが、もともとこうした大規模な原子力災害を想定した法体系はなく、現行法ではカバーできない問題が多いことは事実です。たとえば仮設住宅の設置のありかた、広域的な避難における生活支援や自治機能の確保、原子力被害への全面賠償、地域の再生や住民の健康管理もふくむ恒久的対策などを考えても、原子力災害から住民の命と生活を守る特別の措置が必要になってきます。ですから、この未曽有の大災害にさいして、原子力災害の緊急対策、復旧、復興に、一体的・総合的に対応できる特別法が必要です。この点では協力していきたいと申し上げました。
原発危機収束と故郷に戻れる展望を、政府の責任において示すべき
つぎに今日の被災地の訪問をふまえて、現時点で国に要求していきたいいくつかの問題についてのべます。その概略については、いまの会談で知事にもお話ししました。
第一に、被災者のみなさんが、いま一番強く望んでおられるのは、いうまでもなく福島原発の事故を一刻も早く収束させてほしいということです。そして、「将来の見通しがみえないのが何よりもつらい」ということであり、その見通しを政府として責任をもって示すということです。
私は、前回の福島訪問をふまえて、首相との党首会談で、「政府として責任をもって原発事故収束の展望を示すべきだ」と提起しました。その後、東京電力は、事故収束の「工程表」を発表しました。しかし、それを実行する根拠や保障が示されているわけではありません。私は、収束の見通しについて、東電にいわば「丸投げ」して、国はそれを追認するだけでは責任をはたしたことにならないと思います。政府として、責任をもって、原発危機収束の戦略と展望を示すべきです。さらに避難を余儀なくされている住民のみなさんが故郷の地に戻れる見通しを、大まかなものでも現時点で示すべきです。
この間、首相周辺から「10年、20年は人が住めない」という発言が伝えられました。そういう発言もあってか、現地にうかがってみますと、「もう30年は戻ってこられないのではないか」という声も聞かれました。政府周辺から出されてくる責任のない発言が、住民から希望を奪い、絶望させている。政府の責任において、原発危機収束、住民のみなさんが故郷の地に戻れる展望を、現時点で可能なかぎり示すことが必要だと思います。
放射能汚染を正確かつ綿密に把握し、納得のいく説明と、万全の措置を
第二は、放射能汚染を正確かつ綿密に計測・把握し、その危険性について納得のいく説明を住民のみなさんにおこなうということです。政府は、住民の避難や、学校などでの放射能汚染について、いろいろな措置をとっていますが、その根拠となる放射能汚染の把握と住民への説明が十分にやられているとは、とうていいえません。
たとえば、「計画的避難区域」に町の一部が指定された川俣町にうかがってみますと、当初、政府は、川俣町の山木屋地区と、小綱木、大綱木の、3地域を「計画的避難区域」に指定しようとした。しかし、町として綿密に放射能測定をおこなってみたところ、山木屋地区以外は、放射能の値が「計画的避難区域」の「基準値」としている年間20ミリシーベルトよりも低く、そのことを国に提起したところ、小綱木、大綱木は「避難区域」からはずされることになったと言います。
「計画的避難」と一言でいいますが、そこで生活している人々にとっては、ほんとうにつらい一大問題です。それを決めるのに、十分な放射能の計測をおこなっていない、町が提起して是正されるというのは、政府として責任がない姿勢といわなければなりません。
学校の土壌などの汚染の問題についても、県民の不安はきわめて強いものがあります。政府部内でも危険性についての意見の違いが表明化し、不安が広がっています。政府として、浜通りはもとより、中通り――福島市、郡山市などもふくめて、放射能汚染の実態について正確かつ綿密に把握し、専門的・科学的知見をふまえた納得のいく説明と、万全の措置をとることを、強く求めていきたいと思います。
「計画的避難区域」――安全に責任をもちながら、実情にそくした柔軟な対応を
第三は、「計画的避難区域」については、住民のみなさんの安全をしっかり確保することを前提にしながら、実情にそくした柔軟な対応も必要だと思います。そのことは、それぞれの自治体から強く要請されたことです。
たとえば、この地域内に工場もある。介護施設もある。安全をしっかりまもることを前提にして、実情にそくした柔軟な対応をしてほしいという要望が出されました。仮設住宅の建設なども、放射線の実態からみて安全が確保されるならば、コミュニティーを保持することを重視して柔軟な対応をしてほしいという要望がだされました。
放射能汚染から住民のみなさんの健康を守ることは、国の重大な責任です。同時に、それぞれのケースについて、丁寧に実情をつかみ、実情にそくして、地域のみなさんの生活や故郷への思いをくみあげた柔軟な対応、心ある対応が必要だと思います。
原子力災害の賠償問題――全額賠償、仮払い、負債問題について
第四は、原子力災害の賠償の問題です。これはどこでも国と東電への怒りとともに、非常に強く出された問題です。
私たちは全額賠償を東電に求めるという立場でがんばりたい。全額賠償というのは、事故がなかったらあったであろう収入と、現実の収入との差を、すべて賠償するということです。この立場での賠償が必要であり、勝手な「線引き」をさせないことが重要です。勝手な「線引き」をして、被害者を切り捨てるということを許さない。こういう立場で、全額賠償ということを強く求めていきたい。
また、強い要請があったのは、すみやかな賠償金の仮払いです。これも原発から30キロ圏内の住民の個々の方々には仮払いの手続きがとられているようですけれども、30キロから外は対象外とされている。しかし、30キロから外でもたくさんの方が避難されているわけです。さらに大問題となっているのは、産業被害――農業被害、漁業被害、中小企業の被害、商工業や観光業への被害については、まだ仮払いがなされていない。「このままでは、立ち行かない」という悲痛な声をたくさん聞きました。産業被害にたいする仮払いはすみやかに実施させなければなりません。
さらに、いま一つ強い要請があったのは借金の問題です。農業者も、漁業者も、商工業者も、負債を抱えていらっしゃる。しかし、原子力災害で収入がなくなってしまった。借金を返せないわけです。この問題への対応がただちに迫られている。私たちは、これは国が、まずは全額肩代わりするということで、すみやかに対応すべきだと主張していきたい。岩手県、宮城県でも、借金返済問題は大問題ですが、この地域の災害は文字通りの「人災」ですから、借金の重荷は、まずは国の責任でとりのぞく、もちろん東電に負担責任を求める必要があります。
住民と作業員の健康管理と医療保障のための恒久的対策を
第五は、原子力緊急事態宣言が解除された後も、恒久的な対策が必要になってきます。たとえば、住民の方々や原発で働く労働者の方々の健康について、長期的にきちんと管理し、必要となった場合には医療保障をおこなうことは、恒久的に国の責任としておこなっていく必要があります。
これらの諸点を、政府に要求していきたいと考えています。
被害がなお拡大しつづける異質の深刻さ――展望しめす政治の責任が問われる
(あらためて全体の感想はという記者団の問いに)大震災後の福島訪問は2度目ですが、この地域の災害には、特別の質の異なる深刻さがあるということを胸に突き刺さる思いで感じました。住民のみなさんにとって何がつらいかといえば「先が見えない」ということです。復興に取りかかろうとしても、その足場がない。被害がなお続き、拡大している。福島県の被災者の方々が置かれている状況は、この点で異質の深刻さがあると思います。
それだけに、まず何よりも原発危機の収束にあらゆる力を傾注することとともに、被災者のみなさんに明日への希望と展望をもっていただけるような、政治の責任ある姿勢を示していくことがたいへん大切だと思います。
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