2011年5月10日(火)「しんぶん赤旗」
主張
牛生肉食中毒
「食の安全」責任回避するな
北陸3県や神奈川県に出店している焼き肉チェーン店で出された、牛生肉を細かく刻み味付けした「ユッケ」が原因と見られる集団食中毒で、幼児を含む4人が死亡した事件は、「食の安全」がおろそかにされている危険を改めて浮き彫りにしました。
危険な食品を客に提供していた焼き肉店や食材を納入した卸業者などの責任は、きびしく追及されるべきです。同時に「食の安全」を保証する、国と自治体の責任もきびしく問われるべきです。
なすりあいではなく
4人が死亡し、入院を含め数十人が症状を訴えている集団食中毒は、提供された牛生肉の「ユッケ」が、病原性大腸菌のO(オー)111に汚染されていたのが原因と見られています。O111はO(オー)157などと同じ仲間の病原性大腸菌で、感染すれば腸管から出血し、とくに子どもや高齢者は重症化の恐れが高いといわれています。
「ユッケ」や生レバーなど生肉の提供はきびしい衛生管理が求められており、本来は「生食用」として出荷された食材を厳重に管理して流通させ、調理するさいは専用の用具を使い、アルコールなどで消毒したうえ、表面はトリミング(切削)して、汚染されていない内側の肉だけを使うことになっています。
警察などの捜査によれば、問題の焼き肉店は、卸業者が少量に切り分けて納入した肉を使い、トリミングなどの作業はしていませんでした。食材を納入した卸業者は当初「生食用」は出荷していないと説明していましたが、「ユッケ」にも使えると売り込んでいた疑いも明らかになりました。責任のなすりあいは許されず、徹底して真相を解明し、明確にすべきです。
重大なのは、「食の安全」を保証する、政府や自治体の責任です。政府は、牛レバーの生食で食中毒が発生したため1998年に安全確保の「衛生基準」を定め、各自治体に通知しています。それによれば、生食用の食肉はもともと食肉処理場で「生食用」と認められなければ出荷できず、実際にはそう表示した牛肉はないのに、なぜ「ユッケ」など生牛肉が卸や小売りで売られているのか。文字通り、見て見ぬふりをしてきたとしかいいようのない、政府や自治体の責任がきびしく問われます。
食中毒事件が発生した後、厚生労働省はあわてて関連施設の緊急監視を各自治体に求めましたが、あまりに遅すぎます。消費者庁が、「加熱用」の肉を「生食用」に使用することが「業界の慣習」になっているのではないかと厚労省に資料の提供を求めたのも、同庁が万一知らなかったとすれば、怠慢のきわみです。業界だけでなく政府や自治体に「食の安全」を守りぬく責任が欠落していたとの批判を免れることはできません。
消費者も安全に警戒を
韓国料理の「ユッケ」など、牛生肉が日本で一般的に食べられるようになったのは最近のことです。今回の焼き肉店は「安売り」が売り物でしたが、消費者にも安全性を確かめる姿勢や、子どもには控えさせるなどの注意が必要です。
食中毒自体は昔から知られており、それを避けるための対策もあります。毎年、食中毒はこれからが本番です。尊い命がこれ以上失われることがないよう、政府も業界も責任をつくすべきです。