2011年5月10日(火)「しんぶん赤旗」

生肉の集団食中毒 問われる厚生行政

基準あっても罰則なし 保健所も2割以上削減


 焼き肉チェーン店「焼肉酒家えびす」で発生した集団食中毒は、死者4人、重症者24人など100人を超える深刻な被害となっています。食肉の生食には危険があるにもかかわらず、国が食中毒を防ぐための確実な手だてをとってこなかったことが改めて浮きぼりになりました。


 1996年に牛レバーの生食で腸管出血性大腸菌O(オー)157による食中毒が相次いだことから、厚生労働省は98年に「生食用食肉の衛生基準」を決めました。生食用食肉の専用設備で、衛生管理を徹底するなど、基準を満たす処理をした肉だけが「生食用」として出荷できるとされます。

 この基準は牛、馬の肝臓、肉を対象にしたもので、厚生労働省によると、2008年度以降、衛生基準を満たす牛肉の、と畜場からの出荷実績はないと思われるとしています。鳥刺し、鳥わさなどで生食されている鶏肉や、豚肉には衛生基準そのものがありません。

 一方で、焼き肉店や居酒屋などで、ユッケなど大量の生肉が提供されています。東京都は09年に食肉の生食による食中毒を防ぐ目的で都内飲食店への調査を行いました。これによると、直近3カ月以内に食肉を生で食べる料理を「提供した」ことがある事業者は、提供した食肉について、「仕入れ元が生食できるとした」(42%)、「伝票・ラベルに『生食用』の表示がある」(31%)、「新鮮だと自分や責任者が判断した」(23%)と答えています。国の衛生基準に罰則規定がないもとでの流通実態の一端です。

 食肉の汚染状況はつづいています。内閣府の食品安全委員会によると、と畜場で処理された牛枝肉のO157による汚染は03年以降5・2%から1・2%と減少傾向ですが、市販流通食肉については減少傾向が認められないとしています。

 このもとで、O157や今回のO111など腸管出血性大腸菌による食中毒の発生状況をみると、00年〜08年の患者数は02年以降、漸増傾向(約1600〜3000人)で、原因として牛肉(とくにひき肉)、牛レバーなどが多いのが特徴です。

 食品問題に詳しい日本共産党国会議員団事務局の小倉正行さんは、「衛生基準をつくっただけで法的規制はつくらず事足れりとする、厚生行政のありかたに根本的な問題がある」と指摘します。

 今回の事件は、全国展開のチェーン店で起きました。本部が一括で仕入れ、全国の店舗におろすという業務形態では、いったん食中毒が起こると被害が一気に広がるという危険性をはらんでいます。

 小倉さんは、「これに対応するには、罰則を強め、現場で保健所が管轄の店をチェックするだけではできません。保健所自体、この10年で2割以上削減され、食品衛生監視員の8割が兼任と人手も足りない現状です。厚生労働省自身が、全国展開の業者を束ねてチェックする機能をもつしくみをつくることが必要だ」と話します。





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