2011年5月9日(月)「しんぶん赤旗」
原発事故 そこが知りたい
これでいいのか津波対策
電力会社、最新の知見無視
原発が地震の揺れとともに津波によって大きな事故につながることがはっきりしました。津波対策がなぜ急がれるのか、Q&Aで考えました。
Q 津波で原発はどんな影響受けるの
A 日本の商業用原発は、すべて海に面した所に立地しています。原発は原子炉で発生した熱で作り出した水蒸気でタービンを回し発電します。その蒸気を水に戻すのに、海水を利用しているためです。津波には、押し波、引き波があり、原発はいずれの場合も、被害が出る可能性があります。
海面が上がる押し波では、設備の浸水により多くの機器が機能しなくなる恐れがあります。海水の取水ポンプが水没すれば、海水が取水できなくなり、蒸気が水に戻せず原子炉の冷却ができなくなります。
海面が下がる引き波の場合も、海水面が取水口より下がると、原子炉の冷却に必要な海水を取り込めなくなる恐れがあります。このほかに、津波によって海底の土砂などが運ばれ取水口や排水口がふさがれる危険性も指摘されています。
これらの問題は、市民団体や日本共産党が再三指摘、国や電力会社に対策を求めてきました。
東京電力の福島第1原発では、3月11日の地震で外部電源が喪失、引き続く津波により非常用のディーゼル発電機が浸水し、ほぼすべての電源が失われました。このため、核分裂の連鎖反応は止めることができたものの、熱を出し続ける炉心を冷却できなくなり、日本の原発で初めて炉心溶融、水素爆発という事態をひき起こしました。
Q 原発の津波対策どうなっているの
A 原子炉の地震対策は、2006年に改定された「耐震設計審査指針」に基づいて行われています。しかし、同指針では津波については、「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても、施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと」という一文があるだけです。具体的な基準や考え方は示されていません。
東電は、福島第1原発で想定される津波について当初、3・1メートル程度としていました。その後、02年に土木学会がまとめた「原子力発電所の津波評価技術」に基づいて、5・4〜5・7メートルに引き上げました。近年の津波堆積物などの調査からマグニチュード8・4程度とされる貞観(じょうがん)地震を考慮した引き上げなどはなされてきませんでした。
耐震評価については、改定された指針に基づいて08、09年に中間報告を経産省原子力安全・保安院に提出していましたが、この際、新たな津波の評価は行いませんでした。
各電力会社も、土木学会の評価技術などに基づいて想定津波を求めています(図)。10メートル以上の津波を想定している原発はありませんが、今回、福島第1原発を襲った津波の高さは、東電の発表で14〜15メートルです。また、想定される押し波の高さ以下に海水の取水ポンプが設置されていたり、想定される引き波水位より上に取水口があるなど、対応が不十分な原発が指摘されていました。
ほとんどの原発では、新指針に基づく見直しは中間報告が終わった段階。新たに津波に対する評価を報告し、確認されたものはわずかです。なかには、設置許可申請書に想定津波の高さの記載がなかった原発も。
保安院は事故後、原発の津波への緊急対策を求め、電力各社は電源車を配備するなどの対策を発表。また政府は6日、想定東海地震の震源域の真上に立地している浜岡原発について、「大規模な津波の襲来の可能性が高いことが懸念される」として、運転停止を求めました。しかし、津波への中長期的対策は中身を含めてこれからです。
最新の知見に基づいた抜本的再検討が早急に求められます。
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