2011年5月7日(土)「しんぶん赤旗」
主張
原発被害賠償
東電に謝罪の気持ちないのか
東日本大震災で被災した東京電力福島第1原発の重大事故はいまだに収束のめどが立たず、原発周辺の「警戒区域」などから避難させられた住民や、放射性物質の飛散で農水産物の出荷規制などに追い込まれた農漁業者、中小業者などの苦しみが続いています。
事態はまだ進行中で、被害額がどれほどにのぼるのかも確定しないのに、政府や東電が賠償額を低く抑えようとし、賠償の指針を決める文部科学省の審議会に東電が「要望」までしていたことに批判が広がっています。東電には重大な事故を起こし被害を与えたことへの反省の姿勢が見られません。
「上限」など許されない
原発事故の被害は、法律で電力会社などの事業者が賠償の責任を負っており、今回の事故についても文科省の審議会が賠償対象などについての指針を検討しています。4月末に発表された第1次指針では避難や出荷規制などの被害は認める一方、いわゆる風評被害などは今後検討するとしています。避難生活を送っている人には仮払金の支払いも始まっていますが、農業者や漁業者にはまだ1円の賠償も支払われていません。
政府や東電の計画でも避難した人たちが自宅へ帰れるのは早くても来年以降になる見込みで、その間の被害額や、出荷や作付けを規制された農水産物などの被害額はどれほどになるか見当もつかない状態です。東電には、その被害をすべて賠償する責任があります。
にもかかわらず、そのめども立たないうちから政府や東電が賠償額を「4兆円」などとする試算を持ち出し、東電はそのうち2兆円を負担するなどと言い出しています。東電の負担に、事実上の「上限」を持ち出すもので、あらゆる被害の賠償を求める住民の当然すぎる要求に、真っ向から挑戦するものというほかありません。
東電は自らの賠償額を低く抑えるために、賠償の指針を検討している文科省の審議会に、東電が賠償できる限度額にも配慮してほしいと「要望」までしていたことも明らかになりました。筋違いな要求で、さすがに審議会側も、「不適切」というほどです。
東電が自ら負担する賠償額を、電気料金の値上げで利用者に“尻拭い”させようとしているのもまったく言語道断です。原発建設を進めてきた、経営者や大株主などの責任を免罪することは許されません。東電が試算する賠償額2兆円をまるまる料金の値上げに転嫁すれば、電気料金は16%も引き上げられるといいます。重大な原発事故を起こしたうえに料金の大幅値上げを押し付けようなどというのは、文字通り責任感のかけらもない態度です。
政府や東電が賠償額の試算を急ぐのはそれが固まらないと3月期決算がつくれないからだという説明もありますが、まったく本末転倒の口実づくりに過ぎません。
反省と謝罪をつくせ
原発で重大事故は起きないとの「安全神話」に縛られ、大地震や津波への備えを欠いたため、東日本大震災で冷却機能を喪失し、原子炉や建屋も損傷した福島原発は、いまだに空中など外部への放射性物質の拡散が止まらず、復旧工事もままならない状態です。
政府と東電は重大な人災を引き起こした責任を真摯(しんし)に受け止め、反省と謝罪をつくすべきです。
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