2011年5月1日(日)「しんぶん赤旗」
小佐古内閣参与の辞任
小学校での被曝量 なぜ引き上げ
広がる波紋
放射線防護の専門家として内閣官房参与に任命されていた小佐古敏荘東大大学院教授が4月29日、放射線量基準をめぐる政府の対応を「場当たり的」と批判して辞表を提出したことが波紋を広げています。放射線量や避難区域をめぐって何度も振り回されてきた福島県内では政府への不信がさらに高まっています。
小佐古氏は29日の辞任会見で、原子力災害関連の法令順守を基本とする立場から、政府の対応を「その場限りで『臨機応変』な対応を行い、事故収束を遅らせている」と批判。その具体例としてあげているのは、次の3点です。
(1)福島第1原発からの放射能拡散を予想する「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」(SPEEDI)が手順通りに運用されず、公表が遅れた。
(2)放射線業務従事者の緊急時被曝(ひばく)限度について、今年1月の文部科学省放射線審議会で法令の100ミリから500ミリシーベルト〜1シーベルトまで引き上げるよう提言したが採用せず、今回の事態を受けて急きょ、250ミリシーベルトに引き上げた。
(3)原子力安全委員会の委員は4月13日、福島県内の小学校等での被曝量について「年間10ミリシーベルト程度」と発言したが、文科省は19日に「1〜20ミリシーベルト」との基準を決定した。
とりわけ小佐古氏が強く批判しているのは(3)です。会見で「通常の放射線防護基準(1ミリシーベルト/年)で運用すべきだ。特別な措置を取れば数カ月は年10ミリシーベルトも不可能ではないが、通常は避けるべきだ」と指摘。原発労働者でも年間20ミリシーベルトの被曝はまれだとして、「私のヒューマニズムからして受け入れがたい」としています。公表されている各種の資料を見ると、国内の原発労働者の年間平均被曝量は数ミリシーベルト程度です。
政府は年間20ミリシーベルト以上の積算被曝量が予想される福島県飯舘村などを「計画的避難区域」に指定して避難を呼びかけましたが、同県内での小学校での最大許容被曝量はこれと同じです。子どもは放射線に対する感受性がおとなより高く、被曝限度を低く抑えるのが常識です。
枝野幸男長官は30日の会見で「誤解か何かがある」と述べましたが、記者からは「専門家である小佐古氏が誤解をするのか」と疑問が出されました。
政府はこれまで、福島第1原発の事故に伴うデータ公表を迅速に行わず、また、事故対応に関する意思決定が不透明で、二転三転してきたと批判をあびています。政府はなぜ、「20ミリシーベルト」という数字を決定したのか。明確な説明とともに、一刻も早く子どもたちの被曝を減らすことが求められます。
放射線被曝の法定限度
職業被曝
男性:50ミリシーベルト/年
女性:5ミリシーベルト/3カ月
公衆被曝 1ミリシーベルト/年
緊急時 100ミリシーベルト/年
(今回の事故対応に限り250ミリシーベルト)