2011年4月30日(土)「しんぶん赤旗」
福島原発事故 損害賠償「1次指針」
被害者の叫びに応えたか
「このままでは生活が立ちいかない。一日も早く仮払いを」(東京電力に抗議した福島県の農家)―。東京電力福島原子力発電所の事故から、50日以上が過ぎました。原発事故被害者の生活は苛烈をきわめます。原子力損害賠償紛争審査会が28日に発表した、原発事故の損害賠償の範囲に関する1次指針は住民の声に応えるものなのでしょうか。(清水渡)
精神的苦痛
「損害」と認める
「仮払い」でも、早急に
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1次指針は、政府指示により避難を余儀なくされた人たちへの精神的苦痛を損害として認めました。1999年に茨城県東海村で起きた核燃料加工会社ジェー・シー・オー(JCO)の臨界事故では対象外とされたものです。今回は、「正常な日常生活が長期間にわたり阻害されたために生じた精神的苦痛は損害として認められる」と認定しました。
また、損害額について、「実費賠償」を原則としています。避難費用などについては、状況に応じて一定額を算出し、その額での賠償も認めることを検討しています。営業損害についても、「証明の程度を緩和」「統計データなどによる合理的な算定方法を用いる」としています。
「考え方」が示された以上、東京電力は算定基準の決定などを待たず、被害住民や農漁業者に「仮払い」などの形で一刻も早く支払うことが求められます。
風評被害救済
契約見合わせ、買いたたき…
県内全域対象にして
福島県では、8万4000人にのぼる被害者の避難生活が長期化し、限界に近付いています。出荷制限の指定がされていない地域や作物でも契約が見合わせとなったり買いたたきに遭ったりしています。「被害は福島県内全体に及んでいる。県内全域を賠償の対象にしてほしい」(福島県庁の担当者)。これが被災県民の願いです。
原発による被害は、距離や地域によって線引きされるわけではありません。とりわけ風評被害が大きな影響を与えています。出荷制限となっていない埼玉や群馬のキュウリは例年の4割も安く市場で取引されています。
福島第1原発から80キロ離れた会津若松市の商工会議所担当者は、「修学旅行客を中心に、春から夏休みにかけて約50ある旅館の予約7万件がすべてキャンセルされた」といいます。ホテル・旅館では従業員の自宅待機や解雇も起きています。同地は近隣の被災者も受け入れていますが、観光客とは違い、食事や土産物などは購入しません。担当者は「地域経済に大きな悪影響を与えています」と嘆きます。
日本産の農畜産物の放射能汚染を恐れて、輸入停止にした国や放射能適合基準や産地についての証明書を求める国も出てきています。農林水産省は「損害が生じたことの因果関係は明白」だと指摘しています。
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因果関係
勝手な「線引き」せず
例外なく賠償を
審査会は、こうした避難指示区域以外での損害や風評被害などについて「今後検討する」としています。ただ1次指針では、原子力損害について「本件事故と相当因果関係のある損害」と述べており、損害賠償の範囲が狭められる懸念があります。
JA全中(全国農業協同組合中央会)は東京電力に対し、「農畜産物の出荷停止や風評により生じた損害、土壌汚染による長期の営農停止や離農等の損失をはじめ、原子力発電所の事故災害により発生したすべての被害に対し、速やかな賠償を行う」よう求めています。
東京電力や政府による勝手な「線引き」をゆるさず、原発事故が起こらなかったとしたら起こり得なかった被害・損害はすべて賠償させる必要があります。
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