2011年4月28日(木)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
最寄り駅の近くを歩いていたら、突然、水音が聞こえてきました。音のする方に近寄ると、カラスが水浴びしていました▼遊歩道の一角にある、コンクリートの池でした。3度、4度と派手にばたつき、さっと水から上がる。日差しの中で、いちだんと黒光りする羽。気持ちよさそうに、羽づくろいを始めました▼なるほど、これがカラスの行水か。初めてみました。人が風呂に入る時間の短いことのたとえ、「カラスの行水」。一部始終をみていたわけではありません。残念ながら、本当にカラスの水浴びが短いのか、確かめられずじまいです▼「カラスの行水」は、入浴の短さだけでなく人肌の色も想像させる言葉です。しっかり汚れを洗い落とさず、カラスのように黒いままで湯からあがる。お風呂のある家がまだ少なかった、昔を思い起こします。家族そろって遠慮しながら隣家でもらい湯した人たちは、急いでお風呂から出ていたのではないでしょうか▼政府の調べに回答を寄せた東日本大震災の避難所323カ所のうち、5%にあたる16カ所で1カ月以上まったく入浴できていませんでした。沿岸部の津波被害の大きい市町村からは回答がなく、実情はもっとひどいだろう、といいます▼2週間近く前の発表でしたから、多少は改善しているかもしれません。支援も届けられています。温泉地から直送のお湯。ドラム缶風呂。カラスを眺めながら願いました。誰もが、せめてこのカラスのように気持ちよい時間を早く取り戻せるように、と。