2011年4月24日(日)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
まだ55歳でした。惜しまれながら病に俳優人生を断ち切られてしまった田中好子さんの代表作に、映画「黒い雨」をあげる人は多いでしょう▼今村昌平監督が、井伏鱒二の小説を映像化しました。1989年公開ですから、原爆症に侵されてゆく矢須子を演じた田中さんは、当時33歳です。白黒の画面に引き立つ清らかな姿が、よけい哀れを誘いました▼戦争が終わって5年。矢須子には縁談が絶えないが、次々と破談に。“ピカにあった娘”といううわさがつきまとう。広島に原爆が落とされた時、爆心地から10キロ遠くにいた。しかし、船で広島へ戻る途中、「黒い雨」をあびていた…▼「雷鳴を轟(とどろ)かせる黒雲が…押し寄せて、降って来るのは万年筆ぐらいな太さの棒のような雨であった。真夏だというのに、ぞくぞくするほど寒かった」「黒い夕立は…さっと来てさっと去ったのであった。だまされたような雨であった」(小説『黒い雨』)▼放射能をおびた降下物が、雨にとりこまれて落ちてくる。炎で巻き上げられた放射能を含んだすすがとりこまれると、黒い雨となります。空中に浮かぶ細かい降下物は、時間をかけて遠くへ運ばれ、落ちます。色が黒くなくても、強い放射能で汚染します▼映画「黒い雨」公開の3年前に起こったチェルノブイリ原発事故でも、200キロ先にある地点を人の住めないほど汚染しました。福島第1原発から放射能がもれ続けているさなか、人類に未来への警告を発したあの事故から26日で25年がたちます。