2011年4月18日(月)「しんぶん赤旗」

主張

団体交渉権訴訟判決

「偽装雇用」で団結止められぬ


 「あなたは労働者ではなく『個人事業主』だから、労働組合との団体交渉には応じない」。こんな企業の横暴をくつがえす明確な判断を、最高裁判所が示しました。

 新国立劇場の合唱団員、INAX(イナックス)製品の点検・修理をするエンジニアが、労働組合に入り、待遇改善のために団体交渉を求めたのに対し、「請負」や「委託」での就業であることをたてに使用者側が交渉を拒否したことの是非が問われた裁判です。最高裁は、形式的な契約ではなく、実質的な働き方から「労働者に当たり、団体交渉権がある」という判決を出しました。

委託も請負も「労働者」

 合唱団の「契約メンバー」として働いていた女性は、公演や練習で年間230日も拘束され、同劇場のオペラ公演に欠かすことのできない歌唱労働力でした。エンジニアは、会社と業務委託契約を結ぶ「個人請負」とされていますが、必要不可欠な労働力として会社に組み入れられ、その指揮監督のもとで働いていました。「個人事業主」とは名のみ、独立して仕事を選び、使用者以外の仕事をする余地などなかったのです。

 ところが、加入している労働組合が団体交渉を要求したところ、使用者側は「委託契約なのだから労働者ではない。労働者でないのだから組合との団交に応じる義務はない」という不当な行為にでたのです。この「労働者性」の判断こそ、裁判の最大の焦点でした。

 労働組合法第3条は「労働者」を「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」としています。この定義は、労働基準法よりも広く、弾力的なものです。

 憲法が定める団結権や団体交渉権・争議権を保障し、弱い立場の労働者が使用者側と対等に交渉できるようにすることで、その地位の向上をはかるという労組法の趣旨に従えば、書面上の契約の形態だけで労働者性を否定し、権利を奪うことは許されません。

 1995年に当時の日本経営者団体連盟が「新時代の『日本的経営』」で雇用破壊の方向を打ち出して以降、財界は、労働者の「非正規化」とともに、委託、請負などを名目に「非労働者化」する偽装雇用を大規模に推し進めてきました。実態は労働者なのに、労働者であることを否定され、労働諸法制による保護のらち外に追いやられた「個人請負」で働く人は、厚生労働省所管の研究機関の推計でも全国に125万人とされます。

 裁判所の判断も揺れました。地裁、高裁段階の争いでは、形式的な契約を重視し、労働者性を否定する判決が相次ぎました。今回、最高裁が「労働者」と認める明確な判断をしたことで、労働実態を無視し、契約の形態だけで労働者性を否定することは許されないという、司法の判断が定まりました。

今後のたたかいに生きる

 厚労省の研究会が昨年4月まとめた報告書も「労働者性があると考えられる個人請負型就業者に関しては、労働者として保護されることが適当である」と結論づけています。政府は、最高裁判決を重く受け止め、労働者保護の実効ある対策を急ぐべきです。

 偽装雇用で労働者の団結する権利を奪う財界の企みは、もう通用しません。勝ち取った最高裁判決をたたかいに生かし、団結の輪をさらに広げるときです。





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