2011年4月10日(日)「しんぶん赤旗」
雇用維持・創出 高い壁
“資金の問題”相談多く
東北被災業者 制度の拡充切実
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東日本大震災で大きな被害を受けた東北地方三陸沿岸部。水産業をはじめ各産業が大打撃を受けました。産業基盤が深刻な被害を受けたもとで、中小企業の再建と、雇用の維持・創出が大きな課題になっています。
「被災した中小企業から寄せられる相談で一番多いのは、雇用問題と債務返済にかかわる金融問題です」―。こう語るのは、岩手・大船渡商工会議所の新沼邦夫事務局長です。多くの事業所が津波に流され、建物や機材が残っても浸水による被害を受け、多くの企業は操業できる状態にありません。
震災前から借金
中小企業の多くが震災前から債務・借金を抱えており、今後の再建に重い負担としてのしかかっています。「借金をさらに重ねては、会社を立て直すことができない」。こうした中小企業から悲鳴のような声とあわせて、債務を凍結・免除し、新たに会社再建を目指せる施策を求める声が広がっています。
雇用問題では、沿岸部を中心としたハローワークに事業主、労働者からの相談が殺到しているといいます。震災の特例として、休業手当の8割を保障する雇用調整助成金と、休業による失業保険の給付が適用されることになったからです。これらの特例に期待する声がある一方、制度の充実を求める声もあがっています。
雇用調整助成金は、申請から入金まで数カ月かかります。しかし、多くの中小企業が借金を抱え、銀行からの融資も厳しいもとで、助成金が支給されるまでの間、労働者に休業手当を支給できず、雇用を維持できない状態にあります。申請から入金までの期間の大幅な短縮を緊急に行うことと、その保障として、労働行政の体制を抜本的に拡充することが必要です。
また、操業再開の見通しが立たないもとで、中小企業の2割負担も重いものがあります。宮城の石巻漁港近くで被害を受けた食品加工業を営む男性は、「9〜10割の保障がなければ雇用を維持できない」と語ります。
「生活費に困る」
労働者のおかれている現状について、宮城県労連で労働相談を担当する及川薫さんは、こう語ります。「相談の圧倒的多くが、震災で自宅待機させられたうえに3月12日付か31日付で解雇通知されたことや、解雇までの期間の賃金不払いに関する相談です。相談者の多くが日々の生活費に困っている」
休業や一時離職でも失業保険が適用される特例措置では、支給期間は最低90日、最大330日で、支給額は給料の6〜8割。申請から支給開始までに数カ月かかります。子どもの学費、親の入院費用や医療費などの負担を抱えているうえに、自宅や自動車など多くの財産を失った労働者にとって、収入の2〜4割減は、生活再建に深刻な影響を及ぼします。
地場産業の大打撃と雇用の場の喪失は、地域の存立そのものをおびやかします。これまで三陸沿岸部の多くの自治体では、漁業など主要産業の衰退により人口減少が続いています。そこに襲いかかった震災。「雇用を維持できなければ、労働者が職を求めて東京、名古屋、大阪など大都市圏に移住しかねない」と、宮城・石巻商工会議所の高橋武徳専務理事は懸念します。
「働き続けたい」
地域住民も「いまの場所に住み、働き続けたい」という切実な願いを持っています。
政府は5日、被災者等就労支援・雇用創出推進会議で、失業した労働者を対象に、インフラ復旧、がれき撤去、仮設住宅の建設、被災住宅の補修・再建など、復旧事業による雇用創出策などを打ち出しました。こうした施策とともに、地域経済を支える中小企業の再建支援、雇用を維持するために各制度の抜本的な拡充が求められます。(行沢寛史)
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