2011年4月5日(火)「しんぶん赤旗」
花見ると気が紛れる
仙台市若林区特養ホーム 毎日1人救急搬送
「ふだんなら、窓から景色を楽しむんですけど…」。仙台市若林区、特別養護老人ホーム「杜の里」の副施設長は口をつぐみました。視線の先にはなぎ倒された松やがれきで埋め尽くされた田んぼが広がります。「夏にはカエルの鳴き声がしたんですよ」
海水浴場にほど近く、浜の松林をのぞむ「杜の里」には160人の高齢者が暮らしています。入所者の8割が車いすでの生活。要介護度は平均4・8だといいます。
震災時、揺れがおさまってすぐ、1階の50人を、職員が背負うなどして2階に上げ、泥流から逃れました。
現在、2階と3階で1部屋あたりのベッド数を増やし、寝場所を確保しています。
おむつ交換など通常の介護に加え、余震のたびにストーブを消すなど入居者の安全確保に奔走する職員の睡眠は細切れです。
水分不足や寒さで肺炎や脳梗塞(こうそく)となる高齢者も出ています。毎日1人は救急搬送され現在7人が入院しています。
震災後、歩けなくなったり、徘徊(はいかい)するような高齢者も。「震災のストレスや職員の不安な思いを感じ取ってのことだと思う。高齢者の行動は私たちの鏡ですから」
ひざかけをした女性(107)は、「見ると思い出して怖いから、窓やテレビに背中を向けているの。嫌だね、本当に」と顔をしかめました。隣の机の花を見て「こういうのが見れると、気が紛れていい」と話しました。(日恵野香)