2011年3月29日(火)「しんぶん赤旗」
主張
「危機の連鎖」
原発の不安拡大に説明つくせ
東日本大震災にともなう東京電力福島第1原発の重大事故は、1〜4号機の冷却機能の回復が遅れるなか、1〜3号機のタービン建屋内やその外側、原発付近の海中で高い濃度の放射性物質が見つかるなど、文字通り「危機の連鎖」ともいうべき事態となっています。
事態の悪化を防止する対策に総力を結集するとともに、関係者や周辺住民、放射性物質の飛散が予想される広い範囲の国民に対し、政府や東電が原発への不安拡大にこたえた、正確で丁寧な説明をつくすことが求められます。
核燃料の「溶融」が進む?
原子炉と離れたタービン建屋内に放射性物質を含む大量の水がたまり、3号機で作業していた東電関連企業の作業員が被ばく、原子炉格納容器が破損していると見られる2号機の水からは運転中の原子炉内をはるかに上回る高い濃度の放射性物質が見つかるなどというのは文字通りの重大事態です。
原子力発電所の燃料となる放射性物質は、燃料を焼き固めたペレット、それをつめた燃料棒の被覆管、原子炉圧力容器、原子炉格納容器、さらに原子炉建屋と、「5重の障壁」で閉じ込められています。タービン建屋内に放射性物質が漏れ、しかもその濃度が原子炉内以上だというのは、ペレットも被覆管も壊れて核燃料が「溶融」を起こし、原子炉からも水が漏れていることをしめしています。
タービン建屋内でのたまり水がどこから漏れているのかは確定できていませんが、原子炉からタービンに蒸気を送る配管か、原子炉建屋とタービン建屋を隔てる壁などが壊れている可能性があります。タービン建屋内には原子炉に水を送るポンプもあり、原子炉をコントロールする中央制御室もすぐそばです。タービン建屋の汚染は、原子炉を冷却するための電源回復作業や注水作業などの障害ともなっており、まさに事態は「危機の連鎖」というべき状況です。
総力を結集してこれ以上の事態悪化を抑えるとともに、原発への不安を解消するには正確な情報が不可欠です。東電の発表はどのタービン建屋にたまり水があったのか、その数値はどうかなどで、訂正に訂正を重ねる混乱ぶりです。被ばくした作業員にさえ、タービン建屋内にたまり水がある可能性を知らせていなかったことも明らかになりました。
しかも、東電や経済産業省の原子力安全・保安院の発表は、「いますぐ」危険ではないなどというだけで、とうてい周辺住民や放射性物質の飛散が予想される広範な地域の国民の不安拡大にこたえるものではありません。海水などへの放射性物質の流出も懸念されますがその原因も不明です。最悪の事態にどう対処するかも含めて、正確で丁寧な説明が求められます。
深刻な情報であるほど
原子炉事故にあたって日本学術会議が発表した声明は、「たとえ深刻な情報であっても―むしろ深刻な情報であればあるほど―正確に国民に伝えられるべきものです。そうであればこそ…人々を動かす力となる」と指摘しています。
政府の説明が的確さを欠くための混乱は、周辺住民に対する避難指示や農産物の出荷制限などをめぐってすでにおきています。こうした混乱を防ぎ、未曽有の災害に対応していくためにも、情報の丁寧な提供が緊急に求められます。
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