2011年3月26日(土)「しんぶん赤旗」

きょうの潮流


 原発で働く年配の男性がいいます。「戦争中の神風特攻隊と同じようだと思ったな」▼藤林和子さんの小説、『原発の空の下』の一場面です。巨大な船底のようなタンク内の壁にへばりつき、原発の運転中にこびりついたすすを削り落とす作業。狭い足場の上で、道具をもち電気コードをひっぱり、恐る恐る横ばいにすすむ▼目標にたどりつき、壁を削ってはホースの水を注ぎ洗い流す。火の粉とたちこめる水蒸気で、なにもみえない。熱い。息苦しい。殺されそうだ。「そんな仕事のあとは、決まって放射能汚染の赤ランプが三度も四度も点滅するわな」▼『原発の空の下』は、実際の被ばく事件に取材した小説です。テレビや新聞で図解される原発の中の空気やにおい、光、装置の肌ざわりまで感じ取れます。なにより、電力会社の下請け労働者や季節労働者の仕事ぶりが生々しい。放射能まみれのヘドロを管からかき出す作業など、読んでいるだけで息苦しさを覚えます▼福島第1原発のタービン建屋で被ばくした3人の労働者は、放射能まみれの水につかり作業中でした。本来、水も高濃度の放射能もないはずという場所が、このありさま。事故の重大さをうかがわせます▼いま、官房長官の会見やテレビ解説でことあるごとに聞く言葉があります。「念のため」です。ところが会社は、作業の直前の放射線量を調べず、長靴もはかない装備で仕事させていました。国難とはいえ、もし安全を軽んじる特攻隊精神なら科学とあいいれません。





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