2011年3月19日(土)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
「いのちなき砂のかなしさよ/さらさらと/握れば指のあひだより落つ」。石川啄木の、『一握の砂』に収められている歌です▼歌碑が、岩手県の陸前高田市の名勝、高田松原にあります。いや、いまは「あった」といわなければならないのでしょうか。8日前、大津波は湾の奥の砂浜に広がる松原を越え、町をのみ込みました▼啄木は、盛岡中学3年の1900年夏、修学旅行で高田松原を訪れていました。明治三陸大津波の4年後です。歌碑は、まず1957年に建てられます。ところが3年後、南米チリ沖から押し寄せてきた津波にあって行方知れずに▼のちに砂の中からみつかりましたが、66年に現在の新しい碑が建てられます。啄木の友人だった国語学者の金田一京助が、碑文の筆をとりました。いま歌を読むと、重力にさからえずに指の間から落ちてゆく砂のかなしさが、津波にさらわれていった人々のかなしさに重なってしまいます▼約5000世帯が全壊し、市役所の住民台帳も失われたという陸前高田。行方不明の人が数多く、1万を超える人が避難しています。中学校に避難していた人が亡くなりました。真冬なみに冷え込む夜でした▼同じ中学校で、生徒たちが「町を立て直そう」と力仕事やお年寄りの手助けに立ち上がっています。学校の敷地には、被災地で真っ先に仮設住宅がつくられます。自分も被災者の日本共産党員は、不眠不休の救援活動を続けています。被災から1週間が過ぎ、すべてが時間とのたたかいです。