2011年3月11日(金)「しんぶん赤旗」
高すぎる国保料(税)・強権的取り立てをただし、いのちと健康をまもる国保に
2011年3月10日 日本共産党
日本共産党の志位和夫委員長が10日、記者会見で発表した緊急提言「高すぎる国保料(税)・強権的取り立てをただし、いのちと健康をまもる国保に」は次の通りです。
高すぎる国民健康保険料(税)が全国どこでも大問題となり、地方選挙の大争点となっています。所得300万円4人家族の国保料(税)は、札幌市―45万6500円、大阪市―42万8700円、福岡市―46万8000円にもなっています。滞納世帯は436万、全加入者の2割を超えています。無保険になったり、正規の保険証を取り上げられるなど、生活の困窮で、医療機関への受診が遅れたために死亡したとみられる事例が昨年1年間に71人(全日本民医連調査)という深刻な事態も広がっています。
国保料(税)は、自民党・公明党政権のもとで値上げが繰り返され、この20年間に1・6倍、1人当たり3万円も値上がりしました。民主党政権は、これを是正するどころか、国保料(税)をいっそう値上げすべきと地方自治体に号令をかけました。多くの市町村が、国保料(税)の高騰を抑え、自治体独自の減免などを行うため、一般会計から国保会計に国の基準(法定額)以上の公費を繰り入れていますが、民主党政権は、これをやめて、その分は「保険料の引き上げ」をするよう指示する「通達」を昨年5月に出したのです。さらに、「収納率向上」のかけ声のもとで、生活や営業が厳しくなり国保料(税)を滞納せざるを得なくなった人に、救済の手を差し伸べるどころか、なけなしの預貯金や家電製品まで差し押さえるなど、無慈悲で強権的な「取り立て」が全国で横行しています。
国民健康保険は、「社会保障及び国民保健の向上」(国保法第1条)を目的とし、国民に医療を保障する制度です。その制度が、国民の生活苦に追い打ちをかけ、人権や命を脅かすことなどあってはなりません。日本共産党は、国民の命と健康、暮らしをまもり、国保の本来の役割を取り戻すため、国、自治体にたいし緊急に以下のことを提言します。
1 国による国保料(税)値上げの押しつけをやめ、引き下げに転換する
国は、国保料(税)値上げ「通達」を撤回し、引き下げの緊急対策を
政府の指示どおりに市町村の独自繰り入れがなくなれば、国保料(税)は、全国平均で1人1万円の値上げ、東京都の市区町村では平均で1人3万円、4人家族で12万円という大負担増です。政府は、市町村が住民負担を軽減すると「格差」が生まれ、政府が推進しようとしている「国保の広域化」の障害になると言います。「悪い」方に合わせるのが「格差是正」という、とんでもない「言い分」で、値上げを押しつけるなど許されません。
民主党は、「政権交代」が実現したら国保に「9000億円」の予算措置を行い、国民の負担軽減をはかると国会でも主張していました。ところが、いまは自公政権と同じ、際限なき負担増路線に足を踏み入れています。
日本共産党は、国保料(税)の値上げを指示した「通達」を撤回し、国の責任で緊急に値下げすることを要求します。民主党が公約した「9000億円」の半分以下の4000億円でも、これを投入すれば、国保料(税)を1人1万円、4人家族なら4万円、引き下げられます。2011年度予算で実施しようとしている大企業・大資産家への2兆円もの“減税バラマキ”をやめれば、国保料(税)の引き下げはただちに実施できます。
市町村・都道府県の国保料(税)軽減の努力を推進する
国保の運営主体である市町村が、国の圧力に屈服するのか、住民の立場で国保料(税)値下げ・抑制の努力を続けるのかも問われています。この間、福岡市、所沢市、新座市、北名古屋市などで、住民運動と日本共産党の連携を力に、国保料(税)の値下げが実現しています。住民の生活破壊をくいとめ、滞納の増加を防ぐためにも、一般会計の繰り入れや基金の取り崩しなど、独自の努力を行うことが求められます。また、低所得者や失業者に対する国保料(税)の減免を改善・拡充することや、国保法第44条にもとづく窓口負担の減免制度を活用してお金がなくて医療を受けられない人を出さないために努力することも大切です。
都道府県の役割も問われます。市町村国保に独自補助を行う都道府県は、2000年度の38都道府県から2010年度は12都府県に減少し、総額も、322億円から84億円に激減しました。さらに、多くの都道府県が、政府の号令に従って、市町村国保の「広域化」を「指導」するなど、国と一体となって、国保料(税)の値上げを主導しています。
大阪府の橋下知事は、民主党政権の「国保広域化」に飛びつき、「保険料をバシッと決めて、赤字繰り入れをやめるべき」(2010年7月22日 知事と市町村長の協議会)などと、国保料(税)値上げ押しつけを国と一体になってすすめています。「減税日本」を標榜(ひょうぼう)する名古屋の河村市長も、国保料(税)値上げを繰り返した自民党市政と同じように、昨年、「市長告示」で値上げを強行しました。
地方選挙を前に、にわかに「減税と改革」を言い出す勢力が増えていますが、地方行政で、最大の増税・値上げとなっている国保料(税)に対して、国に追随して値上げをすすめるのか、住民の立場で値下げの努力をするのかは、自民党や民主党を名乗れなくなった看板だけの「改革者」なのか、国民、住民の手に政治を取り戻すためにたたかう本物の改革者であるかを見分ける試金石です。
2 強権的な取り立て、保険証取り上げをやめ、国民の生活と健康を守る国保行政に
住民をさらなる貧困にたたき落とす、非道な差し押さえをただちに中止する
大阪市では、生活苦や経営難のなかでも役所と相談して分割納付をしている人にも、次々と“滞納分を全額払わないと財産を差し押さえる”という督促状が突き付けられ、受験生の子どもをもつ自営業者に“学資保険の差し押さえ”を通告するという事例も起きています。
「銀行口座に振り込まれた給与10万円から9万円を差し押さえ」(京都市)、「給与や子ども手当を予告なしに差し押さえて預金残高をゼロに」(大分県)など、“生計費の差し押さえ”も各地で横行しています。給与・年金の生計費相当額や、子ども手当などの給付は、法律で差し押さえが禁止されているにもかかわらず、銀行口座に振り込まれた瞬間から「金融資産」と強弁し、差し押さえる脱法行為が、全国で拡大しています。地方税と一体で国保料(税)の強権的な取り立てが広がっているのです。
年金を差し押さえられた高齢者が自殺に追い込まれたというNHKの報道が全国に衝撃を与えています(2月2日、「あさイチ」)。「銀行口座を『凍結』され、年金を引き出せなくなった高齢者が餓死死体で発見される」(千葉県)、「営業用の自動車を差し押さえられ、商売ができなくなった業者が一家心中」(熊本県)など、痛ましい事件が続発しています。生活困窮者から“最後の糧”を奪いとり、貧困と絶望にたたき落として、自殺や餓死にまで追い込む――こんなことは、どんな理由があっても許されません。まして、行政機関がやるなどというのは言語道断です。
国による、強権的な取り立て、保険証取り上げの押しつけ政策を転換する
強権的取り立ての大本にも、国の方針があります。厚生労働省は、自治体の担当者を集めた「研修会」で、預金・給与の口座凍結や、家宅捜索による物品の押収とインターネットによる公売、介護サービスの停止など、強権的な取り立ての“模範例”を示しています。その中では「生活の足の車にタイヤロックをかけてしまう」「倉庫に保管する必要もないし、簡単にできる」という方法まで奨励しています(07年11月)。
強権的で過酷な取り立て強化は、収納率の向上にもつながっていません。国保料(税)収納率は80%台に落ち込み、最低を更新し続けています。負担が重すぎて払えないという根本原因を改善しないまま、脅迫まがいの督促や差し押さえを強化しても、住民を貧困に追い込み、苦しめるだけです。
国は、人権を無視した強権的な取り立てを自治体に奨励する行政指導をただちに中止・撤回するべきです。
国保証の取り上げは、国民的な批判が高まり、減少していますが、正規の保険証が発行されない世帯は引き続き159万にのぼり、受診抑制による重症化・死亡事件が全国で起こっています。保険証取り上げの制裁措置を規定した国保法第9条を改正し、保険証取り上げをきっぱりとやめるべきです。
国いいなりの徴収強化ではなく、住民の生活実態に即した相談・納付活動を
各都道府県では国の号令を具体化する指針がつくられ、「収納率の格差是正」「徴収の強化」などを市町村に“指導”する動きが加速しています。さらに、総務省が出した税徴収の委託推進方針を受けて、国保税・住民税などの徴収業務の民間委託が広がり、「地方税回収機構」などの広域徴収機構が各地でつくられています。地方自治体は、国の悪政の下請け機関であってはなりません。自治体のあり方が問われています。国いいなりに差し押さえなどの「収納対策の強化」に乗り出すのではなく、住民の生活実態をよく聞き、親身に対応する相談・収納活動に転換すべきです。生活困窮者に対する機械的な国保証の取り上げをやめ、住民の医療保障を最優先にすることを求めます。14・6%というサラ金なみの延滞金を減免する制度を生活困窮者に適用すべきです。自治体が住民の生活実態に即した相談・収納活動をできるよう、体制整備を支援する国の制度も必要です。
3 国庫負担を計画的に復元し、安心できる国保制度に改革する
国保の財政悪化と国保料(税)高騰を招いている元凶は、国の予算削減です。1984年、当時の自民党政府は、医療費の「45%」とされていた国保への定率国庫負担を「38・5%」に引き下げる改悪を強行し、その後も、国保の事務費や保険料軽減措置などへの国庫負担を縮小・廃止してきました。その結果、国保の総会計に占める国庫支出の割合は、1984年度の50%から24・1%(2008年度)に半減しています。
こうした国庫負担の削減が、「国保世帯の貧困化」と一体に進んだことが事態をいっそう深刻にしています。20年前は240万円だった国保加入世帯の平均所得は、09年度には158万円にまで落ち込んでいます。自営業者や農家の経営難とともに、低賃金の非正規労働者や、失業者、年金生活者などの「無職者」が国保加入者の7割以上になるなど、加入者の所得低下がすすんだのです。その同じ時期に、1人当たりの国保料(税)は6万円から9万円へと跳ね上がりました。これでは滞納が増えるのも当然です。いまや国保は、財政難、保険料高騰、滞納増という「悪循環」を抜け出せなくなっています。
低所得者が多く加入し、保険料に事業主負担もない国保は、適切な国庫負担なしには成り立たない――これはかつて、政府も認めていた国保財政の原則です(社会保障制度審議会の勧告、1962年)。「国保の国庫負担増」を政府に求める市町村議会や首長の意見書は、昨年1年間だけで150件を超え、その多くが1984年の改悪前の水準に戻すことを要求しています。全国知事会・全国市長会などの地方6団体も、昨年12月、「国庫負担の増額」を求める連名の決議を採択しています。
この道しか国保問題の解決はありません。市町村国保の国庫負担を計画的に1984年改悪前の水準に戻す改革を進め、所得に応じた保険料(税)に改めることで、滞納もなくし、持続可能な国保財政への道を開きます。
社会保障・住民福祉として国保制度を再建するのか、それとも、負担増と徴収強化の路線を継続・拡大するのか、いま国保は大きな分岐点に直面しています。国保制度の改善を求める世論と運動が各地で広がり、国保料(税)の値下げをはじめ重要な成果をあげています。住民のくらしと健康、権利をまもる国保制度にしていくために、国民的な共同を広げようではありませんか。日本共産党は、その先頭にたって奮闘します。