2011年3月7日(月)「しんぶん赤旗」

保育所待ち 深刻

大都市部  昨年より悪化


 認可保育所に4月入所を申し込んだ人への内定通知送付が、各自治体ではじまっています。ところが、東京などの大都市部では、どの保育所にも入れない子どもの数が過去最多だった昨年を超す深刻な状況となっています。内定にもれた人から「仕事をやめざるを得ない」と悲痛な声が上がっています。


 東京都練馬区では、認可保育所の受け入れ可能枠2179人のところに、3546人が申し込みました。同区では、認可保育所を今年度5カ所増設、受け入れ枠を255人増やしたものの、申し込みは昨年より329人増加。申し込み者の4割が入れない見通しです。

 2次募集の申し込みに区役所を訪れた母親(29)は「夫の収入が減り、祖母に預けてパートで働いていたが、祖母が入院。私が働かないと生活できない」と語りました。

 昨年、待機児童数が全国一多かった横浜市では、認可保育所を32園新設するなどして、定員を1600人拡大しましたが、1次選考分で4700人近くが入れませんでした。

 堺市では、認可保育所を4カ所増設、受け入れ定員を615人増やしましたが、申し込み者は前年比683人増。2044人が入れない計算になります。


「母子家庭でも入れない」

 東京都世田谷区のA子さん(33)の長女(2)は2年連続で認可保育所に入れませんでした。区内はどこにも入れず、隣の目黒区の保育所に通っています。東京都が国の基準以下で運営する認可外施設の認証保育所です。

 申し込みが定員を超える場合、各自治体では、就業や家庭の状況を指数にして保育の優先度を測り、高い順に受け入れます。通常、A子さんのような正社員の育児休暇明けの指数は満点ですが、昨年、区役所に自分の順位を聞くと「133人中103番目」だといわれました。

 「友人から、知り合いが優先度を上げるために偽装離婚をしたと聞きました。そうでもしないと入れない。もっと枠を増やしてほしい」

 足立区に住む正社員のB子さん(36)は7カ月の長男の入所を申し込みましたが、入れませんでした。

 認可保育所に入れない場合に備えて、昨年10月から認証保育所を9件、保育ママを3件申し込み、ようやくそのうちの一つの認証保育所に空きができて入ることができました。

 同区では、4月1日入所申し込み者の42%にあたる1570人以上が認可保育所に入れない見通しです。「母子家庭で入れない人もいます」とB子さんは話します。

 同区は、認可保育所を増やしてほしいという区民の要求を拒否。認可外保育施設で対応する姿勢をとっています。


大都市の保育所待ち

 大都市部での待機児童問題はますます深刻です。なぜこんなことになったのか。解決の道は―。

深刻な事態なぜ起きた?

詰め込み、補助金カット

 昨年4月の待機児童数は、2万6千人を超えています。待機児童がこれほど深刻になったのは、歴代政権が需要に見合った認可保育所を増設せず、定員以上に子どもを詰め込むなどの「規制緩和」で対応してきたからです。

 2001年からの5年間で増えた保育所利用者数は16万5484人。日本共産党の高橋ちづ子議員の国会質問(衆院予算委員会、2月9日)で、このうち16万人以上が、定員超過によるものだったことが明らかになりました。

 「定員弾力化」は、自民政権下の80年代に始まりました(表)。小泉政権は、「待機児童ゼロ作戦」をかかげて、毎年、10月以降は上限なしに受け入れることを許容。民主党政権は、それを改めるどころか、上限をすべて取り払いました。

 一方で、国は保育所運営費への国庫負担を削り、自治体の保育所建設を難しくしてきました(表)。70年代は10年間で8000カ所近く増設された認可保育所ですが、01年からの10年間は854カ所しか増えていません。

表

新システムで改善できる?

市町村の責任なくし、利益追求許す

 民主党政権は「待機児童をなくす」などとして、保育制度を大改変する「子ども・子育て新システム」を導入しようとしています。待機児童問題は改善するでしょうか。

 幼稚園と保育所を一体化して新しく「子ども園」をつくるといいます。しかし「子ども園」には、待機児の8割以上を占める0歳〜2歳児の受け入れは義務付けないので、待機児童解消は見込めません。

 入所にあたって現行制度では、複数の希望を書いて市町村に申し込み、市町村が入所先を決めます。

 新システムでは、市町村に保育の実施義務がなくなり、保育所を探すのも契約するのも保護者の自己責任となります。待機児の多い大都市部では、子どもを抱えて保育所探しに駆けずり回ることになります。

 帝京大学の村山祐一教授は、「入れないのは市場における契約のミスマッチとされ、市町村が待機児童を把握し、解消する責任がなくなる」と指摘しています。

 新システムは、営利企業の参入拡大に頼って待機児童解消を図ろうとしています。参入を促すために、保育であげた利益を他事業に回せるようにします。保育事業は人件費の割合が高いので、真っ先に人件費が削減される恐れがあります。

 保育施設での死亡事故に詳しい寺町東子弁護士は、「利益追求の保育所では経験不足やモラル低下が事故につながる」と指摘します。

 埼玉県・所沢市で開かれた「新システムを考えるシンポジウム」(1月23日)。参加者からは、「質を下げないで」「認可保育園と正規の保育士を増やして」との声が多数寄せられました。

写真

(写真)お昼寝のために部屋中に敷き詰められた布団=神奈川県内の保育園(2009年)


認可保育所の増設こそ必要

共産党 各地で変化つくる

 日本共産党は待機児童解消には認可保育所の増設こそ必要だと要求し、各地で変化をつくりだしています。

 東京都知事選に立候補を表明している小池あきら政策委員長は昨年3月の国会で、用地難解消のために未利用国有地を低価格で譲渡、賃貸するよう求めました。東京23区だけでも東京ドーム約130個分の利用可能な国有地があることを示し、政府に「前向きに検討する」と答弁させました。世田谷区では今春、国有地に2カ所の開設が決まりました。

 4月に保育所18カ所が新設される神奈川県・川崎市。党市議団は、議会のたびに増設の規模とテンポの引き上げを求め、市の増設計画をリード。福岡市では、党市議団と住民要求で市の姿勢を変えさせてきました。11年度の予算には、定員1100人増の予算が計上されました。

 日本共産党は、国の責任を明確にした「保育所整備計画」をつくり、当面1年間で10万人分、3年間で30万人分の保育所を増設することを提言。

 年間10万人分の保育所建設、保育士の待遇改善などに必要なのは4000億円です。米軍への「思いやり」予算など年間5兆円近い軍事費のごく一部をあてるだけで可能です。

グラフ




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