2011年3月6日(日)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
人間は、といってもここでは日本人ですが、なにか虫にうらみがあるのでしょうか。「虫」は、負の印象をもつ言葉によく用いられています▼「虫がいい」は身勝手をさし、「虫の知らせ」はよくない出来事が起こりそうな予感です。「本の虫」も、読書家へのほめ言葉とはいえません。辞書によれば、熱中するあまり読書以外を顧みない人です▼「虫」という語で、人の心のうごめきを表しているのでしょう。まあ、「虫も殺さない」あたりはよい意味です。殺生などしそうにない優しさ。しかし、「虫も殺さない顔して実は…」とひっくり返る場合も多く、油断できません▼きょうは、二十四節気の一つ「啓蟄(けいちつ)」です。冬ごもりしていた虫が、穴を啓(ひら)いて地上にはい出してくるころ。春を待つ人間たちも、虫も殺さない気持ちで歓迎です。虫のうごめきに、同じ地球にすむ仲間の生命の力を感じ取って▼虫は、分かっているだけで150万種、おそらく1000万種はいるだろう、といわれます。「生物多様性」そのものの虫たち。彼らの変身ぶりも、目を奪います。卵から、もっさりした幼虫、そして華麗なチョウへ。天然の音楽を奏でるセミやスズムシへ▼シューベルトの歌曲「春を信じて」は、春のときめきをうたいます。「おゝ 新鮮な香り、新しい響き!/…/さあ、今こそは、すべてが全部変わるべき時だ」(吉田秀和訳)。いちばん変わるべきは人間でしょう。はい出てきた虫たちががっかりしないような、地上をつくるために。