2011年2月28日(月)「しんぶん赤旗」

検証 米軍再編交付金

「アメとムチ」で基地押しつけ

受け入れ拒否の名護市に停止


 米軍普天間基地(沖縄県宜野湾市)の「移設」(新基地建設)先とされている名護市。新基地建設反対の稲嶺進市長が2010年1月に誕生し、国は同年12月、在日米軍再編の受け入れ・協力を表明した地方自治体に支払う「米軍再編交付金」の停止を通知しました。「アメとムチ」で地方自治体に基地を押し付ける日本政府の手法を検証します。(洞口昇幸)


体育館建設遅れる

写真

(写真)久辺小学校の体育館建設予定地=1月28日、沖縄県名護市

 稲嶺市長は、自らの市長就任後は「米軍再編交付金」関連の新事業は進めていません。前市政時に国から内示を受けた同交付金の2009年度の繰り越し分と、前市政が交付を見込んで進めていた事業の10年度分、合計約16億8000万円を国に求めていました。

 しかし、沖縄防衛局は「今の名護市の状況では米軍再編は進まない」として交付を停止しました。この結果、市は交付金で実施予定だった12事業のうち1事業を中止、2事業を休止(表)、他の事業は別の補助金に切り替え、一般財源の組み替えなどで調整しています。

 なかには、公民館や学校など地域住民にとって必要性が高いものがあります。「移設」先とされている辺野古に近い久辺小学校の体育館建設事業では、すでに古い体育館を取り壊しさら地に。10年度に工事着工の予定でしたが交付金が停止し、工事に入れません。児童は隣接する中学校の体育館を使っています。「文科省の補助金事業に切り替える予定ですが、工事着工は最短で12年度になりそうです」(市担当者)

 名護市中心部の外れにある内原地区会館(公民館)は築40年を超え、ぼろぼろで現在は閉鎖中。同会館建て替え事業は一般財源に組み替え、11年度に実施する予定です。同会館の管理人の男性(50)は言います。「国の対応は露骨です。これが『アメとムチ』なのか」

 「米軍再編交付金」は07年5月に成立した米軍再編特措法に盛り込まれた制度。(1)米軍再編の受け入れ表明(2)環境影響評価に着手(3)施設整備に着手(4)再編の実施と、「進捗状況」に応じて国が金額を決定する仕組みです。

 日米安保条約では、日本全土を米軍基地にする「全土基地方式」を取っています。米軍による基地設置の自由が全面的に保障されているのはアメリカの同盟国でも異例です。

 日本政府は米軍が必要とする地域に基地を受け入れさせるための「アメ」として基地交付金や周辺の地価に比べて高い地代などを国民の税金から支払ってきました。ただ、これらには基地被害に対する補償という意味もあります。「米軍再編交付金」は、米軍再編への協力に応じて支払い、協力しなければ払わないという点でまったく異質です。

 空母艦載機部隊移駐に反対していた山口県岩国市は「米軍再編交付金」に加え、国が交付を約束していた新市庁舎建設の補助金カットも通告されました。これらが大きな要因となり08年市長選挙で艦載機部隊移駐反対の前市長が敗れました。

 米軍司令部移転に反対していた神奈川県座間市も交付金を出さない国の強硬姿勢に屈することになりました。

 「米軍再編交付金」のずさんな使われ方も問題になっています。

 日本共産党の大門実紀史参院議員は10年5月10日の決算委員会で、石川県小松市の「市立美術館分館建設」事業(約1億5000万円)を取り上げ、市側が防衛省と相談の上、同交付金から支出できないはずの「収蔵庫」に「小窓」を設けて「美術館分館」として建設したことを指摘。「無理筋の事業だ」と検証を求めました。

 琉球大学の島袋純教授(政治学)は、「国から地方自治体への補助金は地域住民の必要性と用途があって、その用途に何割か補助するというのが普通です。別要件の米軍基地建設への協力の態度が交付の要件であるというのは異常です。地方自治を侵害する憲法違反のものであり、再編交付金は廃止すべきです」と語ります。

 民主党は野党時代、「自治体の受け入れ表明を交付の条件とするアメとムチで基地負担の受け入れを迫る手法は、国民の税金の使い方として問題」「地方の主体性を無視するもの」(柳田稔議員、07年5月22日の参院外交防衛委員会)と反対していました。それにもかかわらず「アメとムチ」に頼らざるを得なくなっているところに、米軍再編の道理のなさが表れています。


「アメ」に頼らないまちづくり目指す

稲嶺進市長

 1956年に米軍を糾弾する沖縄人民党の瀬長亀次郎書記長(当時)が那覇市長に当選後、米軍は戦災復興のための補助金を打ち切り、米軍が大株主だった琉球銀行は同市の融資を凍結。市民は瀬長市政を守るため納税運動を起こし、市民税納付率は最高97%になり事業を展開しました。

 稲嶺市長も、広報紙『市民のひろば』2月号で「再編交付金にたよらないまちづくりに邁進(まいしん)します」と宣言。今年度は財源調整基金に約14億1000万円を積み立てたことを示し、「ともに再編交付金に頼らない真に豊かなまちづくりを進めてまいりましょう」と呼びかけています。

 全国的には誰でも納税できる「ふるさと納税」を呼びかけています。続々と申し込みがあり、今年度の数は506件、2051万8414円(18日時点)となっています。

「米軍再編交付金」の対象だった名護市の事業
事業名                 全体事業費
辺野古地区市道整備事業      2億8000万円
市道為又17号線整備工事     2億1800万円
豊原地区地域活性化事業(休止) 11億2700万円
久辺小中学校体育館整備事業    5億7000万円
久志小中一貫校屋外運動場整備事業 4億1800万円
喜瀬交流プラザ整備事業      3億9000万円
喜瀬多目的広場整備事業      1億2900万円
久志多目的会館整備事業(休止)  1億2500万円
内原地区会館建設事業         7500万円
大東体験学習施設建設事業       9200万円
名護市地域振興推進事業(中止)  4億6000万円
航空機等騒音測定器維持管理事業    3900万円
              ※金額の端数は省略





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