2011年2月27日(日)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
「藁(わら)にもすがる」、あるいは「溺(おぼ)れる者は藁をもつかむ」。水に浮かぶ藁は、頼りない物のたとえです▼重い病をわずらう人や病人の家族は、効き目が不確かでもよさそうな薬や療法を、なんでも試してみたい。しかし、肺がんの薬「イレッサ」を待つ患者や家族に、そんな藁にもすがるような気持ちはありませんでした▼製造・販売会社は“効き目が大きく副作用は少ない”と胸を張り、厚生労働大臣も「患者たちに一刻も早く届けたい」といったほどですから。「夢の新薬」「希望の薬」「救世主」。イレッサは、鳴り物入りでわが国に出回りました▼ところが、副作用で819人も死なせる薬害を引き起こします。間質性肺炎。製造・販売する会社が、説明書に「重大な副作用」を四つあげています。まずは下痢。間質性肺炎は、肝機能障害に次いで4番目です。大阪地裁が、最初に記すべきだったとのべ、注意を呼び起こす上での欠陥を断罪したのは当然でしょう▼会社は、医者や学者をさかんに宣伝に登場させました。責任を問われると、説明書に書いてあるのだから見過ごした医者が悪い、といわんばかりです。大阪地裁は、会社に賠償を命じましたが、使用を認めた国も責任は免れません▼正常な細胞をこわさず、がん細胞だけを攻撃する―。イレッサのうたい文句です。かつて、同様の効果が期待された別の物質は、「魔法の弾丸」とよばれました。イレッサの場合、副作用で患者を地獄の苦しみに陥れる「悪魔の弾丸」に転じました。