2011年2月27日(日)「しんぶん赤旗」

主張

薬害イレッサ訴訟

製造物責任問うた判決の重み


 800人を超える多数の副作用死を起こした肺がん治療薬「イレッサ」をめぐる薬害訴訟の大阪地裁判決は、輸入販売元の製薬企業に「製造物責任法上の欠陥があった」と認め、賠償を命じました。

 国の法的責任を否定したのは不当です。しかし、副作用を注意喚起する添付文書の記述についての行政指導は、「必ずしも万全な規制権限の行使であったとはいい難い」と指摘しています。国と製薬企業は、判決の指摘を重く受け止め、薬害イレッサ事件の早期全面解決をはかるべきです。

「重大な副作用」

 イレッサが国内で承認・発売されたのは2002年7月です。判決は当時の医療機関向けの添付文書で、死にいたる可能性もある間質性肺炎が「重大な副作用」欄の最初に書かれていなかったことについて、製造物責任法の「指示・警告上の欠陥」にあたると認定しました。最大の争点となった抗がん剤の副作用情報の開示の仕方について、製薬企業の責任を認めたことは歴史的意義を持ちます。

 訴訟で、企業と国は「順番は問題ではない」と主張していました。判決はこの国の言い分をもくつがえしました。「欠陥」を持つ医薬品を、国の指導・監督の下、医療に供した責任は極めて重いといわなければなりません。イレッサの薬害をめぐる国の責任は、判決からも明確に浮かび上がっています。

 この訴訟では、裁判所が1月に和解を勧告し、被告の国と製薬企業が拒否した経緯があります。和解に向けた裁判所の所見は、「国には救済責任がある」と明記していました。にもかかわらず判決で、国の賠償責任が認められなかったのは、国家賠償法上の賠償責任について「許容限度を超えて著しく合理性を欠く場合」という判例があるからです。これ自体、「時代遅れ」という批判を受けているもので、判決によって国の「救済責任」が消えるものではありません。

 国や製薬企業は訴訟で、審査や副作用の情報開示をめぐり、あまり厳しい基準を設けると新薬の承認ができなくなると主張してきました。無責任きわまる言い分です。

 新薬を待ち望むがん患者は多数います。欧米で承認された薬が国内で承認されていないため使えないドラッグ・ラグという状況も問題になっています。しかし、「欠陥商品」の新薬が安易に出回るようでは、安心して薬を選べません。薬事行政への信頼が根幹から揺らいでいます。

 イレッサは承認前から「夢の新薬」ともてはやされて登場しました。いまも多くの新薬は、副作用などの負の情報が十分示されないまま販売されている状況があります。製薬企業のもうけ本位の姿勢がそこにあります。国民の生命、健康を守る立場で「万全な規制権限の行使」を求められる国の責任はきわめて重いのです。

国の責任で全面解決を

 原告以外の未提訴の被害者の救済をどうするのか、患者の権利を明記した「がん対策基本法」の改正、抗がん剤の副作用被害救済制度の創設など、全面解決へ政治的な決着が求められる課題は数多くあります。

 国はみずからの責任を果たさなければなりません。患者の人権を守り、正確な情報で安心の医療が受けられるよう、薬事行政を前にすすめるときです。





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