2011年2月26日(土)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
幼い姉と弟がいる。夜中に襲ってきた大地震。がれきの下敷きになった2人の間は、互いに手を伸ばせば届くほど近い▼父は死ぬ。姉弟を探し当てた母に、助けにきた人が迫る。“2人を救うことはできない。どちらを選ぶか決めてくれ。早くしないと2人とも助からない”。“両方救って”と叫ぶ母。すべてを聞いている姉弟。ついに、母は決断する。みんなが去り、ひとり取り残された子も息を吹き返して…▼わが国でも来月公開される中国映画、「唐山大地震」のはじめの場面です。映画は、引き裂かれた家族の三十数年を描きます。死者・行方不明者25万人という20世紀最大の震災、唐山大地震は1976年、中国・河北省でおこりました▼切ない映画の訴えかける力は強い。心の傷は癒えずとも、運命の日を忘れず生き抜くことそのものがどんなに大切か、と。先のニュージーランドの地震で助かった奥田建人さんも、決断を迫られました。がれきの下。救助隊員が告げました。「右脚を切るぞ」▼奥田さんの場合、自身の運命の選択でした。迷いはなかったようです。「『生きてます』と伝えたい。それで十分」。「いろいろな国へ行きたい。英語を使う仕事につきたい」と夢を語る19歳、富山外国語専門学校1年の奥田さんです▼地震から4日がたちました。生きるか死ぬかの選択の余地を奪われてしまった人たち。そして今も、閉じ込められ、選ぶにも選べないでもがいているだろう人たち。時間とのたたかいの、救出活動がつづきます。