2011年2月10日(木)「しんぶん赤旗」
主張
無償化審査中断
学ぶ権利を尊重すべきだ
まもなく卒業式のシーズンを迎えます。希望を胸に新たな生活に向かう子どもたちを、分け隔てなく温かく受け入れる社会であってほしいものです。
2010年度から高校授業料の無償化が始まっています。しかし、日本の高校にあたる朝鮮高級学校の生徒たちには依然として適用されていません。このままでは3年生は支援を受けられないことになります。「差別は許せない」「後輩たちを安心させたい」―卒業が迫るなか、無償化の適用を求める声が朝鮮学校の生徒、父母、教職員だけでなく社会的にも改めて強まっています。
子どもに責任ない
文科省は昨年11月、外国人学校の無償化判断では個別の教育内容を問わないなどとした審査基準を決定しました。これによって、全国の朝鮮高級学校10校すべてが適用になるとみられていました。
ところが、その直後に起きた北朝鮮による韓国・延坪島への砲撃事件を受け、菅直人首相の指示で朝鮮学校の審査手続きを中断してしまいました。文科省はいまなお、「不測の事態に備える」などと情勢の緊張を理由にして、朝鮮学校への適用を求める度重なる訴えや行政不服審査法に基づく異議申し立てを退けています。
北朝鮮による砲撃は、国連憲章や朝鮮戦争の休戦協定にも反する無法なもので、厳しく非難されるべきです。しかし、菅政権の対応は、朝鮮半島情勢になんら責任のない、日本国内で学ぶ子どもたちに報復する、いじめにも等しいものです。朝鮮半島の緊張を無償化適用の障害にするのは不当です。政治の責任を子どもたちに押し付けるべきではありません。
しかも、韓国と北朝鮮が対話再開に動き、前原誠司外相が日朝協議の再開に向けた環境づくりをいうなかで、緊張を理由に審査を拒み続けるのは筋が通りません。
高校授業料の無償化は教育の機会を確保するためであり、学ぶ権利は平等に尊重されるべきです。政府は、子どもの権利条約などに基づき、国内に居住する外国人の子どもたちにも教育を保障する責務を負っています。無償化を、朝鮮学校の生徒にも適用すべきことはいうまでもありません。朝鮮学校で学ぶ在日朝鮮・韓国人の子どもたちは多くが国内で生まれ、今後も日本社会で生活していくことからも、政府が教育を保障するのがあたりまえです。
朝鮮学校への適用除外が持ち上がったのはもともと、北朝鮮による日本人拉致問題を理由に与党内で適用への反対があがったことにありました。無償化の審査基準をつくった専門家検討会議は、適用は「外交上の配慮などにより判断すべきものではなく、教育上の観点から客観的に判断すべきもの」と指摘しており、菅政権の対応はこれに反するものです。
ただちに実施を
朝鮮学校の子どもたちは長年、政府による差別的な政策によって多くの不利を被ってきました。今日ではほとんどの大学が朝鮮高級学校卒業生に日本の高校卒業生と同等の受験資格を認め、朝鮮学校と日本の高校との生徒どうしの交流も広がっています。
差別をなくす責務を果たすべき政府が新たな差別をつくることは許されません。ただちに無償化に踏み切るべきです。