2011年1月31日(月)「しんぶん赤旗」
ゆうPRESS
若い世代 不妊の悩み
多額の治療費大きな負担に
不妊治療の末、50歳で出産した国会議員が話題になった今月初め。卵子提供や体外受精、高額な治療費用のことなどがメディアでもとりあげられました。現在、不妊治療をしている夫婦は50万人近く。最近は若い世代の間でも「子どもを授かることができるのか」と不安を持つ人もいます。(小倉詩穂、栗原千鶴)
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不妊体験者を支援しているNPO法人「Fine(ファイン)」は、電話相談を行っています。同会のピア・カウンセラーに寄せられる相談のうち約10%が20代からのもの。「不安だが病院に行きにくい」「治療を受ければすぐ子どもができると思っていたが簡単にはいかなかった」などです。
ネットを利用して
「若い人からの問い合わせが増えたのは、不妊の認識が高まってきたあらわれでは」と語るのは同団体の松本亜樹子理事長です。「治療していることを知られたくない人も、インターネットを利用して、匿名で情報や仲間を得られるようになった」といいます。若い世代には「一人で抱えこまず一度、病院に行ってください。血液検査だけでも分かることがある」と話します。
不妊症だと分かっても、治療にかかる多額の費用が若い世代の大きな負担となります。
同団体では、「不妊患者の経済的負担軽減を目指す為の請願署名」に取り組んでいます。松本理事長は「産みやすく、育てやすい環境とあわせ、つくりやすい環境というものも必要になってきています」と語ります。
不安定な雇用では
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「女性のライフスタイルは多様になっています。不妊に悩んでいる人もいます。子どもを産みたいと思った時に安心して産むことができる環境が必要です」と話すのは全国労働組合総連合(全労連)の柴田真佐子女性部長です。「女性の半数は非正規雇用で、年収200万円以下の労働者は1000万人を超え、そのうち800万人が女性労働者です。不安定な雇用や低賃金では多額の費用がかかる不妊治療を受けることは難しい」と語ります。
同部が正規雇用の女性労働者を対象に行ったアンケート(2007年)では、半数以上の人が生理不順を訴えています。生理休暇を取っていない人は78%にのぼりました。「女性部では母性保護のDVDを使って学習をすすめ、生理休暇の取得を促進しています。安定した雇用、長時間労働をなくし、人間らしい働き方と母性を守ることが必要です」と語りました。
欧州は保険適用も
不妊治療を行っている「はるねクリニック」(東京都)の中村はるね院長は「若い世代の受診は若干増えましたが、まだ産婦人科の敷居が高いというのが現状」といいます。子宮内膜症などの病気が若年化しており、「二十歳になったら一度、婦人科検診を」と呼びかけます。
欧州では、少子化や人口対策に高度生殖医療にも、助成金が出たり保険適用されるなど、患者負担を軽減しています。
一方、「日本は病院側の事情も厳しい」と中村院長。「不妊治療に欠かせないカウンセラーを配置していますが、保険の点数はゼロ。持ち出しです。国は少子化対策というのなら、医療にもっとお金をかけてほしい」と切に話しました。
2年で139万円、仕事もやめて…
29歳の体験者にきく
千葉県に住むF美さん(29)は、男の子と女の子の双子のママです。「子育ては本当に大変。でも治療の苦しみに比べれば…」。2年間にわたる不妊治療の末に授かりました。
看護師のF美さんは2005年、24歳で結婚。なかなか子どもを授からず、26歳で不妊治療を始めました。
看護師として、2交代の夜勤を月に5〜6回こなす生活。朝8時半に出勤しても、定時に帰宅できることはなく、遅いときには夜10時まで残業があったといいます。
1年間にわたる人工授精も、妊娠にはつながらず、仕事の疲れと、うまくいかない治療へのいらだちで、夫婦の仲が険悪になった時もありました。
治療のために、夜勤からはずしてもらい、2度の体外受精を試みますが、妊娠にはいたりませんでした。
1回の体外受精にかかる費用は約40万円。「お給料がどんどん治療費に消えていきました。退職したら金銭的に厳しくなる。でも、仕事が本当に忙しくて妊娠できる気がしませんでした」
F美さんは、2度目の体外受精が失敗に終わったことをきっかけに、退職を決意。1カ月後、3度目の体外受精で妊娠にいたり、09年に出産しました。
治療にかかった費用は、2年間で139万円。国からの助成金は25万円でした。「妊娠前にお金がどんどん飛んでいきました。誰もがお金の心配をせず治療できるようになってほしいし、仕事をしながら治療のできる環境を整備してほしい」。F美さんの願いです。
健康保険適用求める
日本共産党
日本共産党は、人工授精や高度生殖医療(体外受精、顕微授精)への健康保険適用を求めています。昨年10月の参院厚生労働委員会で田村智子議員は、保険適用を求めると同時に、実態に即した助成の引きあげや助成年限の延長など柔軟な対応も求めました。
不妊症 正常な夫婦生活があって、2年以内に妊娠しない場合をいいます。過去に妊娠の経験がないものを原発性不妊、妊娠したことはあるがその後2年以上妊娠しない場合を続発性不妊といいます。
治療費の助成制度 厚生労働省は、特定不妊治療費助成事業として体外受精及び顕微授精の治療を受ける夫婦に対し、医療費の助成を行っています。1年度あたり1回15万円、2回までで通算5年支給。夫婦合算で年収730万円以下という所得制限がつきます。独自の助成を行っている自治体もあります。
NPO法人Fine のホームページ http://j-fine.jp/