2011年1月26日(水)「しんぶん赤旗」

「幼保一体化」菅政権 新たな政府案

公的保育の解体狙う

完全市場化 国・自治体の責任放棄


 “待機児解消”“二重行政をなくす”などの名目で現行の幼稚園と保育所を廃止し、「幼保一体化」するとしてきた菅政権。今国会への法案提出を狙い、24日に新たに示した政府案は、制度改変の狙いが公的保育の解体にあることを浮き彫りにしています。(鎌塚由美)


 民主党政権は、現在の幼稚園(3歳以上、所管は文部科学省)と保育所(0歳から、同厚生労働省)を10年かけて「こども園」に統合することを検討してきました。しかし、幼稚園側が強く反発したことからトーンダウン。今回の政府案では、すべての施設を「こども園」に一本化することは断念し、「こども園」とともに一部の幼稚園と2歳児までを対象とする保育所は残すことにしました。(図上)

“三重行政”にも

 民主党政権は「幼保の一体化」で、現在、厚労省と文科省に分かれている「二重行政のムダをなくす」と宣伝してきました。しかし、完全な一体化を見送ったことで、制度は現行より複雑化し、民主党のいう「二重行政」もなくなりません。厚労省、文科省、内閣府の“三重行政”になる可能性さえあります。

 「幼稚園は定員割れで、保育所は足りないので一体化すれば待機児解消になる」という言い分も成り立ちません。待機児童の85%を占めるのは2歳以下の子どもですが、「こども園」には2歳以下の子どもの受け入れは義務づけていません。

個人への給付に

 一方で、政府案では給付の仕組みや契約方法を大改変します。(図下)

 現在の制度では、私立幼稚園には私学助成が、公立幼稚園や保育所(公私を問わず)には必要な運営費が公費で支出されています。また、市町村は保育を必要とする子どもに対し、保育所をみずから運営するか、民間保育所に委託するかして「保育」を提供する(現物給付)責任を負っています。

 政府案は、私学助成と保育所運営費をなくし、「幼保一体給付」とすることを提案。その基本は「個人給付」です。保護者が「保育・幼児教育サービス市場」で利用施設を選び利用する、その際に、利用料の一部を補助するものです。国や自治体は保育所、「こども園」などの運営に一切、責任は持たなくなります。

施設探しに奔走

 保育は完全市場化され、「こども園」などの事業所の収入は、子どもの人数と利用時間に応じた「保育サービスの売り上げ」だけになります。介護保険が導入された介護事業所と同様、運営は不安定化し、保育者の待遇は悪化。保育の質が下がることは必至です。

 また現在は、認可保育所を利用する場合、保護者が市町村に申し込み、市町村は希望や優先順位を考慮して施設を決めます。しかし政府案では、市町村が行うのは「保育の必要性の認定」のみ。保護者が、施設探しに奔走し、施設と「直接契約」することが基本となります。市町村がするのはせいぜい“利用施設のあっせん”だけです。

 政府案は入所の申し込みについて施設に、「応諾義務を課す」としていますが、「正当な理由」があれば断ることもでき、あいまいなまま。また、「入園希望者が定員を上回る場合」は「建学の精神に基づく入園児の選考を認める」とし、入園選抜を許すものとなっています。保育料を滞りがちな低所得者や障害児など手のかかる子どもが、入所を断られるおそれがあります。

 さらに、「特色ある幼児教育」などを行う施設には、上限を設定せず保育料の上乗せ徴収を認めました。

 「公定価格」で保育料は安いけれど、保育水準は低い施設、上乗せ料金によって“デラックス”な施設など格差が生まれ、どこに入れるかは保護者の経済力次第になるおそれはきわめて高いといえます。

保育所増設こそ

 政府案は、入園できなかった子どもについて「必要な幼児教育・保育が保障されるよう、市町村に調整等の責務を課す」としています。しかし、待機児童が多い都市部では施設が足りず、入れる施設がなければ市町村の調整は「絵に描いたモチ」となることは確実です。

 “待機児童解消”“二重行政解消”という民主党の看板が崩れ落ちた今、民主党政権が制度改変に固執する理由はなくなったといえます。

 新制度の検討はやめ、国の財政責任を明確にした保育所増設計画こそ真っ先に検討すべきです。

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