2011年1月25日(火)「しんぶん赤旗」

これで閉そく感打破?

菅首相施政方針演説「平成の開国」「最小不幸社会」…


 菅直人首相は24日の施政方針演説で、日本が陥っている閉そく感の打破をめざすとして内政・外交の方針を示しました。民主党政権に対する失望と怒りが広がるなか、「第三の開国」「最小不幸社会」など新たな装いをこらした演説から見えてくるものは―。


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(写真)菅直人首相が施政方針演説をする衆院本会議=24日

税と社会保障

大企業にバラマキ 庶民には消費増税

 労働者の賃金は下がる一方、大卒者の就職内定率も最悪―こんななかで、暮らしの不安が広がっています。後期高齢者医療制度など、自民・公明政権下で痛めつけられてきた社会保障制度を元に戻し、拡充すること、賃上げで庶民の家計をあたためることが必要です。

 ところが、菅首相は施政方針演説で、「最小不幸社会」をうたい、「社会保障制度改革」を口にするものの、中身は「全世代対応型」にする、「支援型サービス給付」など抽象的なものばかり。唯一、明確なのが「安定財源の確保」。「ある程度の負担をお願いすることは避けられない」とのべ、「6月までに、消費税を含む税制『抜本改革』の基本方針を示す」と改めて明言しました。

 しかも、社会保障改革で、実際にやろうとしているのは、切り捨てです。

 「後期高齢者医療制度」に代わる新制度では、高齢者の差別医療を温存し、負担の拡大を計画。さらに与謝野馨「税と社会保障の一体改革」担当相は、「年金の支給開始年齢を引き上げることも考えられる」(21日)とまで言い出しました。

 菅首相は、「膨らむ社会保障の財源を確保することは限界」といいながら、財界の要求に応えて、11年度税制「改正」で、国と地方をあわせた法人実効税率の5%引き下げを実現します。大資産家を優遇する証券優遇税制も2年間延長します。

 大企業・大資産家へのバラマキを拡充しながら、国民に社会保障切り捨てと消費税増税を押し付けることは許されません。

TPP参加

農業・食料ばかりか 社会もつぶす“壊国”

 菅首相は、「平成の開国」と称して、環太平洋連携協定(TPP)加盟推進で「『平成の開国』を成長と雇用につなげる」などと表明しました。

 しかし、TPPは、例外なく関税を撤廃するもので、日本の農業と地域経済は壊滅的打撃を受けます。政府の試算でも、食料自給率は13%に低下(農林水産省試算)。コメの生産の90%がつぶされます。政府が掲げる食料自給率の50%への引き上げ方針など到底実現不可能です。首相は自給率には一言も言及しませんでした。

 菅首相は「農林漁業の再生」とTPPの両立を強調しましたが、「大規模化」「輸出拡大」など、日本農業をゆきづまらせた自公政権の方針をそのまま繰り返すだけ。これでは再生の展望は開けません。

 しかもTPPは、農林水産物だけでなく、金融、保険、労働力などあらゆる貿易・サービスを自由化するもので、大もうけをあげるのは輸出大企業とアメリカだけです。日本社会そのものに壊滅的打撃を与える“壊国”でしかありません。

 首相は、日本経団連など財界3団体の新年会で「『開国』が必要だともっとも実感されているのがみなさん方だ」と発言。まさに、財界・大企業のための「開国」なのです。

普天間・安保

“東アジア”消えて 日米同盟を絶対視

 菅首相は、「現実主義を基調」にする「外交・安全保障政策の推進が不可欠」と強調しました。その現実主義とは、「日米同盟は、わが国の外交・安全保障の基軸であり、アジア太平洋地域のみならず、世界にとっても安定と繁栄のための共有財産」と述べたように、自公政権時代そのままの“日米同盟絶対”の立場です。

 沖縄米軍基地問題でも、「沖縄だけ(基地の)負担軽減が遅れていることは慙愧(ざんき)にたえない」と言いながら、名護市辺野古への米軍新基地建設を押し付ける日米合意(昨年5月)の履行を「最優先で取り組む」と宣言。県民の総意より米軍を優先させる“忠米”ぶりを際立たせました。

 昨年1月の施政方針演説で鳩山由紀夫首相が言明した「東アジア共同体」という言葉も、影も形もありません。菅首相は、「アジア太平洋諸国との関係強化」も掲げましたが、引き合いに出したのは、昨年末に策定された新たな「防衛計画の大綱」。首相は「高度な技術力と情報能力に支えられた動的防衛力の構築に取り組む」と言明しました。

 しかし、「大綱」は中国の軍拡や北朝鮮の軍事行動を「懸念事項」「重大な不安定要因」として、これに対抗する形で軍備増強をはかるもの。自衛隊を「動的防衛力」として、アジア地域と世界に展開することを想定しています。

 この危険な路線のもと、日米同盟を基軸に軍事力を振りかざしたまま、中国などアジア諸国との関係強化を進めることは不可能です。

雇用政策

大企業に責任とらせず 窮状打開の方策はなし

 菅直人首相は、昨年の臨時国会で「雇用、雇用、雇用」と叫んでいたにもかかわらず、24日の施政方針演説の中身は、現状の厳しい雇用状況を打開するものではありませんでした。

 菅首相は、演説で具体的施策として、新卒者に対する「ジョブサポーター」による支援や雇用を増やした企業に税制を優遇する「雇用促進税制」などを並べました。

 しかし、ジョブサポーター自身が、“官製ワーキングプア”と呼ばれる非正規職員です。

 正規職員を増やさずに非正規職員に働かせ、内部留保を244兆円も蓄積している大企業に法人税減税のばらまきを行っている菅内閣。雇用を守り拡大する社会的責任を果たさせる立場は見られませんでした。

 「雇用促進税制」は非正規労働者を増やした場合にも適用するもので、3年の時限措置でしかありません。優遇措置が切れると同時に解雇されかねない内容です。

 菅首相は労働者派遣法改定案もとりあげましたが、政府案は短期の製造業派遣を容認するなど「大穴」をあけているもので、非正規労働者の正規化を進めるものではありません。

 「雇用を守る」といっても、政府主導で再建をすすめている日航が、必要もないのに165人も解雇した現状に照らせば、無責任のそしりを免れません。

 それもそのはず、法人税減税で財界に雇用拡大を求めたものの、財界からは、「資本主義でない考え方を導入されては困る」と反対されたばかりの首相。同じく財界の要求に応えて340万人の雇用が失われる環太平洋連携協定(TPP)の参加をすすめているのが実際です。「一に雇用、二に雇用」と言っても、国民の信頼を取り戻すことはできません。

悪政の押しつけへ定数削減協議訴え

 菅首相は、消費税増税を押し付けるために「議員定数削減など国会議員も自ら身を切る覚悟を示すことが必要だ」と述べ、与野党協議を呼びかけました。

 しかし、定数削減で切り捨てられるのは国民の民意です。民主党は、現行180の衆院比例定数を80削減し、「将来的には完全小選挙区制とする」ことを狙っています。あらかじめ、消費税増税反対の声を国会から締め出しておいて、増税を強行しようというシナリオです。

 選挙制度の基本は、国民の多様な民意を反映させることです。民意を正確に反映する比例代表の削減や国会議員の削減は民意をゆがめ、国民の声が国会に届かなくなることを意味します。





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