2011年1月25日(火)「しんぶん赤旗」
主張
施政方針演説
異常正さねば、展望示せない
通常国会が開会し、菅直人首相の施政方針演説を聞きました。
鳩山由紀夫前首相の辞任を受けた昨年6月の初の所信表明演説では「信頼回復による再出発」、参院選後の10月の演説では「『有言実行内閣』の出発」を掲げ、今度のキーワードは「国づくりの理念」です。首相は「平成の開国」「最小不幸社会の実現」「不条理を正す」などと主張しましたが、問題はその中身です。日本の政治・社会を閉塞(へいそく)状況に陥らせ、民主党政権になっても何も変わらないと国民を失望させている対米従属・財界本位の異常を正さない限り、国民に展望を示すことはできません。
首相のいう「現実」とは
菅首相が持ち出した「理念」自体は首相が繰り返し語ってきていることで、ことばに新味はありません。見過ごせないのは、菅首相が演説の要所で「現実を冷静に見つめ」とか、「現実主義を基調として」と主張し、現在の政治の枠組みを前提とする立場を浮き彫りにしたことです。輸入自由化を前提に日本が「乗り遅れている」と危機感をあおるのや、社会保障と税の問題をめぐって「負担をお願いするのは避けられない」などというのも同じたぐいの議論です。
「現実」を認めるだけで変えようとしないこと自体、政治家としての構想力と対応力に欠ける態度です。しかも、いま日本が直面する問題が、これまでの政治の枠組みを変えないで対応できると考えるのなら、それこそ“現実”に反することになります。
たとえば首相は「最小不幸社会」を掲げますが、いま国民が直面する生活不安と経済危機の根源には、大企業は200兆円を超す内部留保をため込み空前の「カネ余り」なのに、労働者の年収は12年間で61万円も減っていることに象徴されるように、大企業一人勝ちの社会になっている現実があります。菅政権は労働者が求める大幅賃上げを進めるどころか、財界が求めた法人税減税を予算案に盛り込みました。財界本位の政治の異常を正さない限り、国民の生活不安も経済危機も解消しません。
菅首相は「平成の開国」のためにアメリカが求める環太平洋連携協定(TPP)参加の結論を出すといい、沖縄の米軍普天間基地の県内「移設」についても「最優先」で取り組むといいました。国民の反対を押し切ってまでこれらの課題を進めようというのも、「日米同盟」が基軸だという対米従属政治の異常のためです。ここでもこれまでの枠組みを続けるのではなく、異常を正さない限り、変化が実現できないのは明らかです。
「国づくりの理念」といいながらこれまでの異常な政治を認め引き継ぐことを鮮明にした菅首相の演説は、この政権がアメリカと財界の要求に全面屈服したことを証明するものです。まさに政治の異常を正さない限り、政治に対する国民の閉塞感は打破できません。
翼賛体制づくりの危険
菅首相が演説で、繰り返し自民党などとの「与野党協議」を持ちかけたのは重大です。演説中5回を数えます。まさに対米追随・財界本位の立場では共通する政党との翼賛体制づくりのすすめです。
アメリカと財界に全面屈服した菅政権が、国民との矛盾を深めるのは避けられません。国民の力で翼賛政治を打ち破ることこそ、異常を正し、政治を変える道です。