2011年1月22日(土)「しんぶん赤旗」
主張
取り調べ全面可視化
もはや「先送り」は許されぬ
検察、警察の違法・不当な取り調べをめぐる問題が相ついで表面化しています。
大阪地検では、2010年1月に放火事件の犯人とされた知的障害のある男性にたいして、検事が取り調べで誘導をくり返していたことが発覚しました。強盗致傷事件で少年院に送致されるなどした後に無罪が確定した元少年らが損害賠償をもとめた裁判では、大阪地裁が20日、大阪府警の取り調べのさいに暴行や供述の誘導があったとして賠償を命じる判決を出しました。いずれも密室の取り調べで虚偽の「自白」が強要され、深刻な人権被害を生んだ事件です。
弱みにつけこみ誘導
大阪地検の事件では、男性の捜査段階での供述調書を確認する場面を約30分間録画したDVDが残っていました。裁判員裁判の対象となる事件であったため地検が取り調べの一部を録画し、証拠として提出しようとしたものです。
すでに作成ずみの供述調書を読み聞かせて確認する検事にたいして、男性は、調書の内容に合うよう聞き返されて供述内容を変えたり、検事の言葉をおうむ返しにして確認に応じたりしています。男性の説明と食い違う調書の記述が訂正されていない個所もあります。男性の弁護人が「弱みにつけこんだあからさまな誘導だ」と批判するのも当然です。
深刻なのは、一般の成人と比べて、違法な取り調べ、自白強要からみずからを守る能力が乏しい少年や知的障害者が被害を受けていることです。
コミュニケーション能力が低く、誘導にも迎合的になりやすい特性をもった被疑者だというのに、そこには何の配慮もみられません。それどころか、暴力や脅迫、誘導まで使い、検察、警察のシナリオ通りの供述を引き出そうとする取り調べ手法は、野蛮としかいいようがありません。
やはり、取り調べの全面可視化を急がなければなりません。被疑者と検察官、警察官がどのようなやりとりをしたのか、その一部始終を録音・録画し、検証可能とすることによって、取り調べの適正化をはかるべきです。
足利事件をはじめ、この間明らかになった重大な冤罪(えんざい)事件で、密室の取り調べでつくられる虚偽「自白」が共通して問題になり、可視化の実現を求める世論が高まっています。大阪地検特捜部の郵便料金不正事件でも、誘導などによる取り調べが問題になりました。捜査への支障などを理由に、頑強に可視化の実現に抵抗している検察、警察の態度は、世の中の流れにさからうものです。
公約破りあらためよ
可視化の実現をめぐっても、民主党政権は重大な公約破りをしています。
可視化法案は、08年6月と09年4月の2回、参院で民主、共産、社民の賛成で可決され、衆院で廃案になりました。民主党は09年の総選挙のマニフェストでも可視化をかかげました。ところが、政権交代後は、法務、警察官僚の抵抗もあり、「検討する」といいながら、全面可視化の法制化を先送りし続けています。
そうしている間にも、捜査機関の違法・不当な取り調べの新たな被害が生まれ続けています。人権をまもり、冤罪を生まぬ司法へ、可視化実現は待ったなしです。
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