2011年1月18日(火)「しんぶん赤旗」
奨学生にボランティア奨励 文科省
公共性投げ捨てながら
「負担」も「自覚」も要求
奨学金を受けとる学生や授業料を減額免除される学生に対し文部科学省は、今後ボランティア活動などを奨励していく方針です。関係者からは批判が起きています。
ボランティアの奨励は、文科相の諮問機関である中央教育審議会大学分科会の学生支援検討ワーキンググループがとりまとめた「今後の学生に対する経済的支援方策の在り方について(論点整理)」を受けたものです。
「受益者負担主義」に
「論点整理」は、大学教育は「公共性」をもっており、それが学生への公的支援の根拠となっているが、公共性が「学生に十分認知されていない」と指摘。国や大学に対して「教育自体が公共性を有し、社会から支えられていることを学生に自覚させ…獲得した知識・技能等を現在及び将来においても社会へ還元していくよう促すこと」を求めています。その「仕掛け」として持ち出したのが、ボランティア活動などの奨励です。
これに対し日本学生支援機構労働組合の岡村稔書記次長は、「政府は、『公共性』を語るにふさわしい学生への支援を、これまで行ってきたのか。逆に『受益者負担』の考え方をもち込み、公共性を否定してきたのではないか」と憤ります。
中央教育審議会は、1971年の答申で、教育費は投資であるとし、「投資の効果のうち個人に帰属するものと社会全体に還元するものとが区別できれば、それを考慮して受益者負担の割合を決めるのが合理的」とする「受益者負担主義」の考え方を提起しました。この考え方は、文科省の奨学金の実務を行う新たな組織を検討する会議の座長であった奥島孝康氏(早稲田大学元総長)が、「高い教育を受けた者はそれに応じた収入が約束される…要するに教育とは自己への投資」と国会で述べた(2003年)ように、その後も引き継がれます。
このため、1970年に年間1万2000円だった国立大学の授業料は、2010年度には53万5800円(標準額)にまで高騰。文科省の資料でも1975〜2007年度の物価指数は2倍なのに対し、授業料は15倍にもなっています。(グラフ)
無利子のみだった奨学金制度にも、有利子制度を創設して「教育ローン化」するなど、政府は学ぶ権利を保障する国の責任を後退させてきました。
このことは、中教審の「論点整理」自身、日本の「大学の授業料は高く」「高等教育費に占める家計負担の割合はきわめて高い」と認めています。
予算獲得競争をうむ
千葉大学の三輪定宣名誉教授は「ボランティアの『奨励』と言っても、大学間では予算獲得のために競争となり条件化する可能性がある」と懸念を表明します。
岡村書記次長は語ります。「経済的に困難があるために支援を受ける学生だけ、ボランティアを奨励するのはおかしいのではないか。憲法に定めるひとしく教育を受ける権利を保障するために奨学金はある。政府は学生に公共性を説く前に、考え方を転換し、社会全体で学生を支え、お金の心配なく学べる仕組みをつくるべきです」(前野哲朗)
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