2011年1月12日(水)「しんぶん赤旗」

主張

政治テロ

問われる米社会のあり方


 米アリゾナ州で連邦下院議員が市民との政治対話中に銃撃され、重傷を負った事件は、米国と世界に衝撃を与えました。テロは断じて許されない犯罪です。とりわけ、政治家を狙ったテロは民主主義への挑戦として、現代社会の根幹を揺るがすものです。動機や背景が十分に解明され、再発が防がれなければなりません。

 事件は、米国で銃が野放しになっている問題とともに、米社会をむしばむ深刻な分裂を浮き彫りにしたとの見方が強まっています。それは米国と世界との関係にもかかわる問題です。米社会の実態に目を向ける必要があります。

「同時テロ」10年

 この事件で、少なくとも6人が巻き添えで死亡しました。その一人、9歳の少女は政治に関心を抱いていたといいます。クリスティーナ・グリーンさんが生まれたのは2001年9月11日。今日まで10年にわたる激動の起点となった「同時多発テロ」の当日でした。

 「9・11」を受け、当時のブッシュ米政権はアフガニスタンへの報復戦争に突き進みました。さらに、意にそわないイラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」と呼び、イラクには内外の反対を押し切って圧倒的な軍事力を投入し、体制転換をはかりました。ブッシュ政権の主張は、米社会にイスラムや異なる文明への憎悪と敵対をかきたてました。

 「テロとの戦争」を掲げる当局は、米国内でも電話盗聴を正当化するなど治安対策に力を入れ、社会に緊張を高めました。中東出身者をはじめイスラム系住民、さらにさまざまな社会的少数者に冷ややかな視線が注がれました。

 右派系メディアが対立をあおり、異なる意見に耳を貸さない風潮も強まりました。「戦争」が正当化され、武力への信奉も強まりました。選挙では民主党と共和党との対立ばかりが耳目を集め、しばしば中傷合戦になりました。

 イラク侵略の正当性のなさが明らかになり、イラク・アフガンでの戦争が泥沼化し、米兵の犠牲が拡大するなかで、米社会に戦争への反対が強まったのは当然の流れでした。ブッシュ政権の退陣は、米国による一国覇権主義の破綻を象徴するものでした。代わって登場したオバマ政権は多国間協調を掲げ、イスラム世界との和解も呼びかけました。

 しかし、オバマ政権への反発が、ブッシュ政権以来の社会分裂に拍車をかけます。右派「茶会」が社会運動として急拡大し、共和党右派の支持基盤となりました。

 ニューヨーク市では、同時テロの現場「グラウンド・ゼロ」近くでのモスク建設計画に反対が起きました。メキシコ国境に面し事件の起きたアリゾナ州では、移民取り締まりを強化する州法が成立し、連邦政府と対立しました。

暴力の連鎖断って

 ギフォーズ議員(民主党)がなぜ銃撃されたかはなお不明です。しかし、社会分裂を背景に“問答無用”と言論を封殺する風潮が、米国の一部にあることは明らかです。放置されれば、米国の対外政策にも影響を与えかねません。

 同時テロの被害者遺族グループ「平和な明日」の「戦争とテロの暴力の連鎖を断ち切ろう」との和解の呼びかけに、米社会はどう応えるのか、社会分裂を克服していくのかが注目されます。





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