2011年1月11日(火)「しんぶん赤旗」
主張
薬害イレッサ和解勧告
生命の尊厳奪った責任果たせ
なぜこれほど重大な薬害が引き起こされたのか。国と製薬企業の責任はあまりにも重いものです。
抗がん剤イレッサの副作用で死亡した患者の遺族らが国と輸入販売元の製薬企業に損害賠償を求めていた訴訟で、東京地裁と大阪地裁が、国と製薬企業の責任を認め、和解金の支払い、原告との誠実な協議を求める和解勧告を示しました。提訴から6年、「和解勧告を受けて、がん患者の救済制度の創設も含めて実現してほしい」(原告団代表の近澤昭雄さん)という願いに向き合うべきです。
多数の副作用死
イレッサの日本登場の仕方は、異常でした。2000年ごろから、医学雑誌や新聞報道で「画期的な新薬」「副作用はほとんどなく延命効果が高い」「手軽に自宅でも職場でも服用できる」と高い前評判が広がり、「すべてのがん患者の救世主」的存在と受けとめられました。02年7月には、承認申請から半年足らずという異例のスピードで、世界に先駆けて承認されました。
しかし、発売後わずか2年間で444人もの副作用死を出したことで薬害が表面化しました。間質性肺炎など死に至る病を引き起こす極めて危険な薬だったのです。
実はイレッサは、開発の時点から動物実験で間質性肺炎による死亡の危険が指摘されていました。にもかかわらず、この事実を隠して承認を受けていたことが、裁判のなかで明らかになっています。承認前から期待をあおり、患者や医療機関に危険性を知らせぬまま薬を売り続けた製薬企業。漫然とイレッサを承認し、その後の安全対策も取らなかった国。国内の死者は800人以上にのぼっています。その責任はあまりにも重大で、謝罪と賠償は当然のことです。
原告らが求めているのは賠償だけではありません。薬害イレッサ事件の教訓を、がん患者の権利の確立や薬害防止に生かしてほしいということです。
イレッサは、特定の患者には劇的な効果があるとして現在も使われています。しかし、他の抗がん剤と比べて副作用が発現する割合が何倍も高く、しかも副作用への対処の方法がなく、多数の患者が死んでいるということも事実です。効能ばかりを強調し、危険な事実は公開しないで、患者に選択を求めるやり方は許されません。
原告が「がん対策基本法」に「がん患者の権利」を明記し、これに基づく医療体制の整備を求めているのは、イレッサ事件で患者の知る権利や自己決定権が奪われた問題を、今後に生かすためです。
イレッサの厳密な再審査も必要です。現行の「医薬品副作用被害救済制度」が、抗がん剤を救済対象にしていない問題もただされるべきで、新たな制度の創設が強く求められています。
全面解決に踏み出せ
イレッサでは、余命1、2年と宣告された患者が、服用からわずか2〜3週間で、息を詰まらせ、たいへんな苦しみのなか亡くなりました。がん患者の重い生命の尊厳を奪った責任を国、製薬企業は受けとめなければなりません。
国の医薬品行政を前にすすめ、こんどこそ薬害の再発を防ぐ総合的な対策を実現し、薬害イレッサ事件の全面的な解決を進めるために、国、製薬企業は、ただちに和解協議のテーブルにつくべきです。
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