2011年1月9日(日)「しんぶん赤旗」

きょうの潮流


 初山登りはやっぱり高尾山。三が日も過ぎた平日の朝とはいえ、東京・八王子の奥まった山中に老若男女、人影が絶えません▼家族連れ。独り黙々と山頂をめざす人。運動着の胸に「陸上部」の文字をぬいつけた高校生の一団は、歯を食いしばって駆け登る。冬木立の下に広がる関東平野を遠くへだて、浮島のような筑波山。頂上の、富士山がきれいに望める場所では、撮影の順番待ちです▼尾根を伝って、真言宗のお寺、薬王院へ。流れる読経。たなびく線香の煙。急な斜面にたつ境内は、初もうで客でにぎわっていました。「世界平和」「万民豊楽」は、本堂に掲げられた祈願の標語です▼人ごみの中から、中年らしい男性同士の会話が聞こえてきました。「…兵隊さんがまだいっぱいいるんだよ」「政府がめんどうをみているって? 思いやり予算とかで」「アンポなんか、もういらないよ…」。2人は、「世界平和」を願ったに違いありません▼「万民豊楽」。人それぞれに、「よりよい暮らしと人生を」の思いを込めて山を登ってきたのでしょう。ふと、思いました。お坊さんにも悩みがあるのではないか、と。奈良時代に開かれた高尾山のお寺は、殺生を戒める、ゆたかな自然の守り手でした▼しかしいま、“ご神木”の下で高尾山にトンネルを掘る工事がすすみます。1200年余りにわたって保護してきた千古の森が、自分たちの代に枯れたり衰えたりしたら…。お坊さんたちが、そうならないよう祈っていても不思議ではありません。





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