2011年1月7日(金)「しんぶん赤旗」
横須賀原子力空母訴訟の焦点
安全基準(エードメモワール)は日米合意
政府は拘束力ないと言うが
2008年9月に米原子力空母ジョージ・ワシントン(GW)が横須賀基地(神奈川県)に配備されて以来、艦内からの放射性廃棄物の搬出が続いています。今春にも3回目の搬出が予想され、住民の不安が広がっています。この作業は米側が示した安全基準にも反するとして、住民らが原子力空母の航行禁止を求めた訴訟の東京高裁判決が、3月17日に下されます。判決では、安全基準=「エードメモワール」が日米間の正式合意と認められるかが焦点となっています。(竹下岳)
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エードメモワールとは、1964年11月から強行された米原子力潜水艦の日本寄港を前に、「安全性」の根拠として示された同年8月17日付の「覚書」です。8月28日に日本政府の発表文とともに公表されました。
そこでは、(1)放射性廃棄物は、原子力潜水艦によって米国の施設や専用の施設船に搬送される(2)放射能にさらされた物質は、外国の港では原潜から搬出しない(3)燃料交換や動力装置の修理を日本国内や領海内で行わない―と明記しています。
明白な違反に
GWは配備以来、09年と10年の1月から4月にかけて放射線管理を伴う修理と、横須賀停泊中に、バース(岸壁)の上をクレーンでつるして放射性廃棄物を搬出しています(写真参照)。これらは明白なエードメモワール違反です。
ところが、日米両政府は「『搬出しない』のは陸地であり、陸揚げしなければいい」などと解釈をねじ曲げました。
加えて、被告である国側が「エードメモワールは、米原子力艦船の寄港に関し、安全性と運用等に対する米側の回答をまとめたものにすぎない」「日米両国間の合意ではない。『条約』には該当しないし、法的拘束力もない」との答弁書を東京高裁に提出(昨年9月28日)。エードメモワールに違反しても、法的に問題はないとの態度を取ったのです。
繰り返し訴え
住民らが最初に原子力空母の航行禁止を求める訴訟を起こしたのは08年ですが、横浜地裁は昨年5月に棄却しました。
原告団はただちに控訴。国際問題研究者の新原昭治氏から提供を受けた米解禁文書を提出し、エードメモワールは日米間の協議で合意された文書であると主張してきました。
例えば、63年2月4日の日本側第1回質問書には、米側が原潜寄港に関する正式の取り決めはつくらないと伝えたのに対し、日本側が「何らかの種類の申し合わせがなされるのが望ましい」と表明しています。
その後も再三にわたって合意文書の作成を要請。米側が提示した「覚書」を日本側が書き改めたことも記されていました。(63年8月8日、東京発国務長官あて電報)
さらに、米側に対して「緊急に、覚書についての合意がなされなければならない」と要求(63年12月23日、東京発国務長官あて電報)。国会対策上、合意文書の必要性を繰り返し訴えています。
弁護団は、エードメモワールは日本側が求めて米側に同意させた「核心的合意文書」と指摘しています。
「航行を制限」
エードメモワールが日米合意であると認定することが、なぜ重要なのでしょうか。
弁護団の呉東正彦弁護士はこう語ります。
「海の道交法とも言える『港則法』37条2項では、港湾管理者は核燃料物質による汚染などを防止するため、原子力船の航行を制限できます。ただし、横須賀基地周辺は米軍への提供水域のため、港湾管理者が権限を行使できるのは、米艦船の行動が日米合意に反している場合です」
エードメモワールが明確な日米合意であり、それに反した実態が認定されれば、原子力空母の航行を制限できます。さらに、「日米両政府によるエードメモワールの解釈変更を食い止めることもできる」と指摘します。
呉東弁護士は言います。「厚木基地周辺などでは、米軍機の飛行差し止めを求める爆音訴訟が行われています。我々の訴訟はその“海版”であり、日本の司法が米艦船の行動を制限できるのかを問いかけているのです」
横須賀原子力艦船修理などの動き
1964・8・17 米政府、原子力艦船の日本寄港に関する「エードメモワール」を提出。「動力装置の修理を日本で行わない」「固形廃棄物は米国に搬送して処理」などと明記
2005・12・2 米海軍、横須賀へのジョージ・ワシントン(GW)配備を発表
06・4・17 シーファー駐日米大使、「合衆国原子力軍艦の安全性に関するファクトシート」を提出。エードメモワールを「堅持」と明記する一方、「動力装置」を「原子炉」と書き換え、炉心以外の修理を“合法化”
08・9・25 GWが横須賀に配備される
09・3・28 GWが横須賀停泊中、艦内から放射性廃棄物約1トンが搬出される
10・3・16 岡田外相、横須賀でのGWの定期整備で「放射能管理の作業伴う」と答弁。日本共産党の井上哲士議員の質問に
10・4・10 ズムワルト米公使、GWのメンテナンス作業の安全性に関する「説明」を提出。放射性廃棄物の搬出は陸揚げでなければエードメモワールに反しないと釈明
10・4・16 GWが横須賀停泊中、艦内から放射性廃棄物を搬出。コンテナ4個が確認される
署名始めました
横須賀基地での原子力空母航行差し止めを求める原告団は、3月17日の東京高裁判決に向けて、1月から請願署名に取り組みます。署名用紙は「原子力空母の横須賀母港問題を考える市民の会」ホームページでダウンロードできます。連絡先=横須賀市民法律事務所046(827)2713