2011年1月4日(火)「しんぶん赤旗」

マスメディア時評

言論機関の役割果たしているか


 2011年の新年にあたり、全国紙を中心に、各新聞の社説(主張)に目を通しました。

 それぞれ普段の2本立てを1本にし、力をこめていますが、驚くのは、「読売」、「朝日」、「毎日」、「日経」などの全国紙が、日米同盟の強化、消費税の増税、環太平洋連携協定(TPP)参加問題など、取り上げるテーマも同じなら、論じる中身も大差ないことです。それぞれ数百万部規模で発行される全国紙が、これで独立した言論機関の役割を果たしているといえるのでしょうか。

そろいもそろい翼賛の社説論調

 「強固な日米同盟が不可欠だ」「日本が(TPP)交渉に乗り遅れれば、自由貿易市場の枠組みから締め出されてしまう」「消費税率を引き上げる以外に、もはや財源確保の道がない」

 「税制と社会保障の一体改革、それに自由貿易を進める環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加。この二つを進められるかどうか。日本の命運はその点にかかっている」

 「とりわけ急がれるのは、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を中心とする貿易の自由化」

 これだけ読んで、どれがどの新聞の社説かが分かる人は、まずいないでしょう。それほど違いがないのです。最初が「読売」、次が「朝日」、最後が「日経」(いずれも1日付)ですが、入れ替えてもほとんど差がありません。「毎日」(同)も、「日本を元気にする」としてあげるのは、「日米同盟を揺るぎなくする」ことや、「消費税増税」です。

 全国紙の論調がそろいもそろって共通だというだけでも異常ですが、それにとどまらず重大なのは、その中身が時の政権の主張を繰り返し、財界やアメリカの要求のお先棒を担ぐだけのものになっていることです。

 これらの全国紙の主張と、「平成の開国」を掲げ、日米同盟の「深化」や消費税を含む税制の「抜本改革」を打ち出した菅直人首相の年頭所感とは、ほとんど同内容です。「民主導による『日昇る国』の実現」を求めた日本経団連会長の新年メッセージや、「決断の年」と迫った経済同友会代表幹事の年頭見解など、財界の要求ともうり二つです。

 かつては全国紙の間でも、「朝日」や「毎日」対「読売」「日経」「産経」というふうに、一定の論調の違いがありました。それが同じ調子になったばかりか、政府や財界の主張に翼賛するだけというのでは、もはやこれらの全国紙はジャーナリズムとしてもっとも大切な「権力の監視役」としての役割を果たせていないことになります。

問題の解決策示すことこそ

 いったいこれらの全国紙は、日本の「外交力の劣化」(「読売」)を指摘しながら、軍事力と軍事同盟の強化を主張するだけで、どうして日本が世界に誇る憲法9条を生かした平和外交の強化を主張しないのか。「税制と社会保障の一体改革」(「朝日」)を指摘しながら、当たり前のように消費税の増税を言うだけで、どうして大企業と大資産家に適切な負担を求め、財政危機と経済危機を一体で打開する方策を論じないのか。

 危機感をあおるだけで、問題解決にそれ以外の対抗軸を示さないその論調には、言論機関に不可欠な想像力と構想力のいちじるしい劣化を指摘しないわけにはいきません。「読売」のように、「懸案処理のための政治休戦と、暫定的な連立政権の構築」を言い出すにいたっては、翼賛政治のきわみというほかありません。

 ちなみに新年にあたって地方紙の社説の中には、中江兆民の『三酔人経綸問答』を引きながら軍備増強に頼らない国のあり方にふれた「河北新報」や、日露戦争当時に平和外交を主張した外交官・朝河貫一にふれながら「歴史の知恵 平和の糧に」と論じた「東京」などがありました。政府や財界の主張にあわせるだけの全国紙には、こうした「歴史の知恵」を借りるほどの力もないのでしょうか。

 マスメディアがその使命を忘れ、危機感をあおるだけで解決の手がかりを正しく示さないのでは、あしき扇動にしかなりません。

 日本のマスメディアには戦前、先を争って侵略戦争をあおり立て、国民を誤導した恥ずべき過去があります。今年はちょうど、日本のマスメディアが侵略戦争賛美に突き進むきっかけになった、「満州事変」から80年です。いったい、日本のマスメディア、とりわけ全国紙は、80年前と同じ誤りを繰り返さないといえるのか。新年の全国紙の論調は、このことを鋭く問いかけています。(宮坂一男)





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