2011年1月3日(月)「しんぶん赤旗」

きょうの潮流


 一足早い仕事始め。辞書のたぐいを横に置く。分厚い『広辞苑』も、棚から引っ張り出しました▼『広辞苑』をみるたびに思い出します。『広辞苑』を編んだ新村出博士と、俳優の高峰秀子さんの交流を。新村博士は1957年、上京の折に突然、まだ顔を合わせたこともない高峰さんの自宅を訪れました▼あいにく留守。文通が始まり、1年近くたってこんどは高峰さんが京都の博士宅を訪れる運びとなります。玄関が開き、びっくり仰天。等身大よりも大きい彼女の写真。電器会社の広告ポスターでした▼渡る廊下も周りも、大中小のポスターだらけ。書斎にいたっては、ポスターに埋もれた谷間に博士の仕事机がある。「わが老いらくの愛こそは…」と歌にも詠んだ83歳の博士は、高峰さんに夢中でした▼高峰さんの悲報が、伝えられました。「二十四の瞳」の大石先生のいちずさ。「浮雲」のゆき子の、自堕落な気だるさの中に秘めた、めらめら燃える情念。みる者をくぎ付けにした人は、86歳で逝きました。5歳で映画の世界へ。生母を4歳で失くし、養母との愛憎も複雑で、人生の道のりも険しかったでしょう▼自伝に、出演作のせりふを紹介しています。「人間の一生って、生まれたときから欠けはじめるのね。必ず死ぬんだから。…だから、美しく生きた人だけが、“ああ、生きていてよかった”と思えるんだわ…私にはそう思えたときがあったかしら?」。人々に豊かな映画体験をもたらした高峰さん、きっとそう思えたはずです。





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